豆の山

クールなハゲと美女愛好家。家事育児パートに疲弊しつつ時の過ぎゆくままなる日々雑感をだらだら書いています。ナナメな王家ファン。

 映画「ゆれる」雑感

監督:西川美和
主演:オダギリジョー
香川照之
真木よう子 ほか
公式サイト



見ごたえある1本との前評判も高かったせいか、オフの週末、これが上映されている新宿の映画館(新宿武蔵野館)へ行く度に、最終回まで立ち見ですとの札にうな垂れてすごすごと帰ること4回。そうこうしているうちに大ヒットに勇んだ劇場が急遽サービス拡大したのか、いつの間にかレイトショー枠が出来ているじゃないの!そんなわけで、ある平日の夜、前売り券を握り締めたワタシはなんとか滑り込こみで鑑賞。幸い、大感動して家路に着いた。私は確率と効率と嗜好の点から、邦画は1年に数本しか観ないのだが、1本でもこういうのに当たると、邦画だってまだまだ捨てた(捨ててないが)もんでもないよな、と嬉しくなる。

この映画は、久々に人に勧めたくなった作品だ。
なんたって、オダギリジョーのあの肉感的なクチビルとクールな眼差しのギャップが醸し出す色気に、あたしゃ目が釘付けよーーーーーー!
今度の彼は、若い女とラブラブシーンがあるのよ*1ーーーーーーーーー!




ではなくて。
法廷ミステリーとして見ごたえあるのはモチロンだが、私はこういう兄弟愛ものに弱かったのだ。幸か不幸か、男兄弟の強く美しい絆というものを、私は身近で見たことがないせいで(というより、ウマが合わないのに繋がれると、どこまでドロドロに反目できるかを知ってしまったせいで)、監督が描き出して見せたこの早川兄弟の絆というものに、えもいわれぬ妙な憧れを覚えてしまうのだった。この感情は、たぶん、あれが私には手の届かぬものゆえの憧れだろう。あれがもし女姉妹バージョンで、一人の男を争う話ならば、もっと陰惨で生臭いやりとりになると思われるが、まぁ、それはそれで面白いドラマにはなっても私はあまりそっち系は見たくないんだな。
私は、この映画を観ている間中、あの弟が兄に感じているある種の罪悪感とでもいうべきものに胸が痛んだ。でも、罪悪感を覚えるということは、裏返せば、そこに愛情があることでは?つまり、オダギリジョー演じる早川弟は兄さんのことが、なんだかんだいって好きで好きでたまらないんだナァと思えてならなかった。都会で成功した写真家である弟は、自分とは何もかも見事に対照的な兄、つまり、実家が経営するガソリンスタンドを一人で切り盛りしている実直な、5つか6つ年が離れたあの優しい兄(香川照之・素晴らしい!)のことを大好きなのだ、ということが観ていて良くわかるのだ。もちろん、その「好き」の中身は、弟らしい甘ったれた願望が投影されているために一方的な面があることも、兄には兄で笑顔の下にどす黒い屈折があったことも、監督は残酷なまでにきちんと描きだすのだが。加えて、底の底の部分であの二人の間は繋がっているのだということも。言葉に出来ない兄弟間の葛藤に挟まれて、一人の女性の命が失われてしまったことは大いなる悲劇だが、その部分にはあまり目が行かなかった…ような気がする(あの女優さんは独特の色気と倦怠感があって良かったけれど)。なにしろ、最後のシーンで弟は兄に何と呼びかけたか。あれって、子供の頃のまんまの呼び方だよなぁと、人間って、子供の頃の情愛だけは裏切れないように出来てるのかな、二人はやり直せるのかな、そう信じたいな、なんて、私は柄にもなくほろほろしてしまったのでありますね。