豆の山

クールなハゲと美女愛好家。家事育児パートに疲弊しつつ時の過ぎゆくままなる日々雑感をだらだら書いています。ナナメな王家ファン。

2008年8月号月刊プリンセス連載分雑感

月刊 プリンセス 2008年 08月号 [雑誌]【今月のネタバレあらすじ】
トラキア国王女一行がハットウシャに到着した。
待ちかねたヒッタイト王は、自ら王宮玄関に足を運んで王女を歓迎する。タミュリスと名乗ったあでやかな王女に王は満足し、親しく王宮に招き入れた。一方、何も知らされていない乳母ムーラは、出迎えを命じられ困惑していたところ、王女がイズミル王子の花嫁としてやってきたらしいと耳打ちされ愕然。快癒祈願のため神殿に籠もっているヒッタイト王妃に急ぎ使者を走らせた。
王宮内では、ヒッタイト王とタミュリス王女の会見が始まっていた。王女の口から銅の供給を確約する旨のトラキア王のメッセージを聞き、ヒッタイト王のエーゲ海制覇への野望は膨らみ、この王女がイズミルの心を捕えれば、ナイルの姫はわしのものとほくそ笑む。
その頃、神殿でムーラからの知らせを聞いたヒッタイト王妃は、王子の生母であり、「タワナンナシュ」たる自分に一言の相談もなく、王がトラキアとの婚姻による同盟を画策していたことに衝撃を受け、神殿を飛び出す。
頃やよしと見て取ったヒッタイト王は、タミュリス王女を促し王子の部屋へと案内に立つ。道すがら、さりげなく息子は王女の来訪について何もしらないとフォローするが、タミュリス王女の心は、怪我をしているというイズミル王子への同情と対面への期待で高鳴る。そして、王妃の帰還を今か今かと待ちかねているムーラの心を余所に、ヒッタイト王がタミュリス王女を連れてイズミル王子の病室へ現れた。
王女はイズミル王子をひと目見て、心奪われる。しかし、一方の王子は突然の見知らぬ来訪者に看護を申し出られて当惑気味。同盟を象徴する二人の対面は極めて短く、王女はヒッタイト王に連れられて名残惜しげに病室を後にした。
父王の意図を掴めぬ王子は、苦しい眠りに落ちながら、風の噂を思い返す。遠くインダスの地に、一つの国が揺らぎ、滅びたという。過日、滅びゆく国の太子にナイルの姫が警告を発し東遷を勧めた。太子は激怒したが、それは真実になったというあの噂はまことであろうか……
王子の体調を懸念するムーラは、王子に真実を告げられなかった。
そして神殿から急ぎ帰って来たヒッタイト王妃も、息子にこれ以上の苦しみは与えたくないと苦悩する。

以下、9月号に続く。


【今月のお言葉】
父上…なにゆえに
前触れもなく客人をこのようなところへ……
トラキアと国交でも開かれるおつもりか
*1



【今月定点観測記】
今月号は珍しくヒッタイト号だったので、たった1コマだけ登場しているミラ嬢に、あら元気だったのね〜と安心。相変わらず王妃様着きの侍女らしい。
そんで、ルカはハト便書くのさぼっているとみた!我が王子は、商人の噂とやらでナイルの姫のインダス滅亡予言をもう仕入れてるじゃん。さりげなく美談に捏造されている噂を王子が信じ込んじゃう前に、きっちり報告書あげとかなきゃヤバイかもだ。

う〜む。それにしても、カラー表紙のイズミル王子がいやにキャロルっぽいのには驚いた。
キャロルっぽいというとアレだが、どことなく深窓のお嬢様が弓矢を手にして困惑している図に見えなくもない。私のイメージのイズミル王子っていうのは、顔立ちがたとえ女性的な細面だとしてもそこには厳として男性フェロモンを漂わせ、そして何よりも「王者の」顔でなければならない。彼は異形の存在にして、思わず目を逸らしてしまいかねない殺気を纏い、それでいて目を釘付けにされる色気がある人(だった)。がそれはメンフィスであっても、ラガシュであっても、アルゴンであってもまったく同じ。そういう意味では、今一番「色気」があると思えるのはヒッタイト王かもしれん。野心のある王様大歓迎。
単行本を久しく読んでないのでうろ覚えのまま書くが、かつてヒッタイト王がトロイ王国を狙ったのは、そこが青銅の武器を作るに欠かせない「錫」流入ルートの玄関口だったからという話があったっけ。ちなみに、「青銅」というのは「銅」と「錫」の合金のことなんだなんだそうな。強くて堅くて鋳造しやすく、加熱して圧延することもできるきわめて優れた合金なので、広く古代世界で利用されたという。後代だと、「錫」はフェニキア商人が遠くイギリスあたりから東地中海沿岸地域に運んできていたらしいが、王家ワールドでも「錫」は西方から輸入されているのかな?で、エジプト・ミノア連合軍に敗走させられたヒッタイト王としては、今度は銅そのものの確保に戦略転換したと。エジプトは国内にシナイ銅山を抱えているし、バビロニア・アッシリアあたりのメソポタミア地方ではシュメール人の昔から銅は南のディルムン国からさかんに輸入していたらしい(そういえば、ディルムンの王様がこないだ変装してエジプ王宮へ挨拶に来ていたが、販路拡大戦略か?)。あとは、銅の産地として有名なのがキプロス島だが、あそこはミノアの勢力圏っぽい。
とすると、ヒッタイト王は北方からの銅輸入ルートを新規開拓するつもりか。王家のヒッタイトには「鉄」がらみの話がほとんど出てこないが、鉄の武器は量産してないの?まず銅の確保が先決かなぁ。とか、ヒッタイト王的戦略をイロイロもうそうしてしまうわけだが、一方、おベンキョーに忙しいひきこもり息子は「国交でも開かれるおつもりか」と寝言発言。かつて帝国の青写真を描いていた人にフッと冷笑してもらえ。
早期最終回を待望しつつこんなことにワクワクするのもどうかと思うが、ヒッタイトが今後北方諸国と連携を模索するというのは個人的になかなか興味をそそる展開ではある。ヒッタイト人のルーツは今もって謎が多いわけだから、トラキア(今のブルガリアあたり)、とはいわず、もっと北、それこそ草原地帯まで巻き込んで、スキタイ人とかアッシリア王の傭兵集団として暴れたという謎のキンメリア人とか、登場させてもネタとしては面白そう。ふぅぅ〜のネウロイ人で終りって勿体無い…って単なる騎馬民族モエストの妄言です。ジョーダンです。講談社から刊行中の「興亡の世界史」シリーズには、騎馬民族特集3冊もあるんだもの。以下三冊は知らないうちに西洋/中華中心史観でふさがれていた私の目を開けてくれたのであります。受験世界史いってよし!ってかんじなエキサイティングで面白い本なのでおススメ。
スキタイと匈奴 遊牧の文明
シルクロードと唐帝国
モンゴル帝国と長いその後

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そして折りしも、今年9月にトラキアの秘宝が日本にやってくるらしい。
前に紹介したナショジオの特集(参照)関連企画みたい。トラキア王の黄金仮面など展示されるようだ。
http://www.digi6htb.jp/blog/thracian/
北海道ねぇ……観光がてら見物に行けたらいいんだけど。関東には来ないのだろうか。


さてその、ヒッタイトの命運を握る(かもしれない)トラキアのタミュリス姫。
今月号で初のご尊顔を拝したわけだが、北のひとらしく眸にトーンが貼ってあるのがやや目新しい顔立ちかな。雰囲気は王家美人のそれだと思うが、まあこの先ブスになる可能性はおおいにあるわけで。おお怖や。
顔より何より、王家のお姫さまっていうのは型があるのはなぜなんだろう。彼女たち、タミュリスもアイシスもミタムンもカーフラもドロシーも、王家の姫君方ときたら「第一王女」しか出てこないじゃないか。おおそうだ。ついでに、「愛の泉」に出てくるギリシャの王女オリビア姫も第一王女だったはず。しかも、イズミル王子のタミュリス姫に会ったときの反応が、目の前の女が結婚相手だというの想像すらできない、恋ボケ皇太子ジュリオの反応とそっくりときた。
第一王女、つまり生まれたときからちやほやされるのが約束されているやんごとなき長女たちだ。そういう意味ではキャロルも「リード王国第一王女」といっていいが、彼女の場合さらに末っ子というポジジョンなので最強ね。
容姿は違えど、姫さまたちはキャラが皆似ている。彼女たちは揃って父王との精神的繋がりが強く、父王から溺愛され、嫁すにあたり父王の覇道の道具となることに疑念を抱くことはなく、幸せなことに、物語のなかで彼女たちの恋心と父親たちの思惑はぴったり一致する。だから、彼女たちの恋は一様に一目ぼれに始まり、恋に溺れて一時幸せを味わうこともある。が、王家世界において、彼女たちは絶対的に「負ける」ことを運命づけられている。

「人間誰しも一回は負けるもんだ」
確かに。
だが私が往々にして辛いのは、この世界には、絶対的勝者以外存在しないこと。
敗者に対する尊敬が、慈悲が、愛が全く感じられない点。
そのくせ、愛の物語だとふんぞりかえっているところ。
かつてキャロルはアイシスに「ごめんなさいね。私はメンフィスを愛してしまったのよ」と詫びたが、読み始めたころの私はここが一番せつなかったんだけどな。
誰かを愛することは誰かを傷つけてしまうんだ。自分が存在するだけで、誰かを深く傷つけてしまうこともあるんだなあという残酷な真実。どうしようもなくややこしい問題。
今じゃ、そんなのアタシの責任じゃないし〜と開き直ってしまえる私だが、キャロルがこの「ごめんなさいね」という心を失ったと感じたとき、私にとっての王家の魔法は消えた。今のキャロルが同じ事を口にしたらさぞ違って聞こえるだろうということだけは断言できる。

願わくば、同じく「負け」を運命付けられたイズミル王子とタミュリス姫に幸あらんことを。

*1:イズミル王子@療養中