豆の山

クールなハゲと美女愛好家。家事育児パートに疲弊しつつ時の過ぎゆくままなる日々雑感をだらだら書いています。ナナメな王家ファン。

 舞台「エビータ」

ちょいとアルゼンチンに行ってきた。
尤も、浜松町にあるアルゼンチンだけど。
9月某日夜、ほのかに潮の香漂う四季劇場[秋]にて、7月末から9月中旬まで上演されている「エビータ」のC席(笑)切符が取れたため万障繰り上げて出かける。民衆に熱狂的に愛されたアルゼンチンの大統領夫人、エビータことエバ・ペロンの短くも嵐のような生涯をミュージカルにした作品(アンドリュー・ロイド・ウェバー作曲/ティム・ライス作詞)。映画版ではマドンナが主演したアレの劇団四季バージョンである。ということは当然日本語なわけですね。

エビータ(サントラ)完全版スペシャル

エビータ(サントラ)完全版スペシャル

この映画サントラ。映画を観ずにCDだけ先にチェックしていたあの頃、私はバンデラス(狂言回し的チェ・ゲバラ役)の歌がどぉぉしても耳障りでマドンナの歌唱ばかり聴いていた。バンデラスは好きだけど、彼の歌はワタシ的には“聴くに耐えない”の部類に思われ…ジョナサン・プライスのお芝居っぽい洒落た歌い方とも違うし(あっちは好き)、なんというか、CDだけだと所々かすれ声でスゴんでるだけに聴こえるのよね。しかし一度映画のほうを観てしまうと、「ま、こんなものかな」と思えてしまうから、我ながらわけが判らないのだが。8月下旬は専らi-Podで聴きまくり、音楽に合わせてひとり廊下をステップしながらくるくる回ってたりしてあぶね〜あぶね〜


四季版、わりとヨカッタ。
なんかあらずじ見てるみたいな舞台だったね〜という感想も小耳に挟んだが、ワタシはこの手のそっけなさがけっこう好きだ。人生の皮肉と運命の残酷さ、その対比で輝く人間の生というテーマ。解釈はアナタにお任せしますよ、とこちらに投げ出してくるやり方を、ワタシは愛するのである。

2幕の冒頭、大統領夫人になったエビータが宮殿バルコニーで歌うシーン「Don't Cry for me Argentina/アルゼンチンよ泣かないで」で思わず白いハンカチ振ろうかと思ったくらい。ラテンダンスも兵隊ダンスも見目麗しく、劇中しょっちゅう着替えるエビータのテーラードスーツの数々もとってもステキ(30年代デザイン好き)。映画版でも海外の舞台版でも、男を踏み台にしてのし上がってゆくエビータからは、女優本人のキャラ自体ドスが効いてそうで怖そう…ってな気配をビリビリ感じるのだが、今回四季版のエビータ女優さん(井上智恵)はちょっと違うような印象を受ける。もちろん彼女も鼻っ柱は強く、上昇志向も相当強そうなタフさを感じるんだけど、でも、彼女のあの一生懸命さにはどことなく清らかなかんじがあって、ヴァンプを気取っても可愛らしいなと思えるのだ。その彼女が、時々スカートの裾捲り上げて啖呵きったり、男の首にしなだれかかって誘惑しだすと、ヘンにエロチックだっりするのね。決して、マドンナその他が淫奔路線だとかいうつもりはないけど、あっちは並みの男では太刀打ちできないしたたかさがあるでしょう。だから、小柄な井上エビータの一生懸命さがどこか痛々しく、それでよけい彼女の、若くして伝説になったエビータという女性の運命の残酷さを際立たせるような気がするのだ。この四季版では、映画版で追加された新曲、死の床に瀕したエビータが夫のペロンに対して愛を歌いかける「You Must Love Me」が入ってない。その他微妙に違う箇所があるけれど、この歌がないと決定的に違う物になるんじゃないか。何しろペロン(下村尊則)は病に倒れたエビータが「私はどこへ行くのでしょう」と呟くと、「俺は知らない」という言葉を投げつけて去るのだから(ただし、原歌詞は「Don't ask me anymore」だから「俺に訊くな」というより「もう何も言うんじゃない」のほうが近いかもしれない)。寒々としたものが残るけど、エビータの孤独が際立つ印象的なシーンだ。どっちが好きかと言われると…う〜ん悩むな。

その他、四季版で好きなところ。
エビータが田舎から飛び出すことになるきっかけを作った歌手マガルディ(飯野おさみ)歌い方が、いかにも垢抜けず野暮ったくて良かったこと。映画のマガルディはとっても上手いんだけど、ドサ廻りの流しの歌手としてはちょいと粋すぎるように思う。そうそう、垢抜けないといえば、エビータに追い出されたペロンの元愛人の小学唱歌のような歌い方に度肝を抜かれた(笑)ペロン役の下村さん(白い軍服姿がステキ)と、チェ役の芝清道さんはTVの劇場中継でしか見たことない人だったので、生で聴けて感激。
来年また再演してくれますように。今度は1階で観よう、きっと。