豆の山

クールなハゲと美女愛好家。家事育児パートに疲弊しつつ時の過ぎゆくままなる日々雑感をだらだら書いています。ナナメな王家ファン。

 佐藤賢一「女信長」


女信長 「傭兵ピエール」にハマリ見事徹夜して以来、私は佐藤賢一氏が紡ぎだす歴史小説のファンである。この方の中世西洋歴史小説はまことに面白いのだが、去年出たのはアメリカを舞台にした「カポネ」だったし、今度は日本の戦国時代ものである。書店でこれをみかけたとき「え”?佐藤さんがノブナガもの?」と一瞬驚いた。が、考えてみればこの方のデビュー作の「ジャガーになった男」からして、支倉遣欧使節団の一員として渡欧した仙台藩士が、女に惚れてスペインに留まった挙句傭兵になって大暴れする話だから、別にジャンル変更(?)というわけでもないのかもしれないが。


題名どおり、織田信長は女だったという驚愕の設定の物語である。男の論理では天下統一は到底望めぬと踏んだ父の信秀が、明敏な娘の御長(おちょう)を嫡男として扱ったばかりか、家督を譲って後事を託したというわけである。信長が女!?そ…そんなバカな…!!だったら、濃姫と結婚したことや、子女も沢山いたこととかどうするんだよーーーとのワタシの疑問も、作中でかなりあっさりと処理される。ま…まぁ、こういうのアリかも??と思わせてしまうのがエンターテイメント歴史小説の名手・佐藤賢一的マジックなのかもしれない。確かに、停滞しきった現状打破には、直感的で生理的な女性的思考が破壊の一助になるのかもしれない、とは思うものの、「信長が革命児だったのは、つまるところ女だったから」で押し倒され、ワタシはなんだかキツネにつままれたような気分で読み終わってしまった。お陰でこれからどんなTVドラマ見ても、本能寺前に信長が光秀をイビリ倒すシーンは、女の更年期のヒステリーにしか見えないという恐れが無きにしも非ず。欲を言えば、せっかく面白い設定なので、もうすこし戦国時代っぽく背景細部を詰めて書いて欲しかった気がしないでもないけど。とはいえ、信長(御長)が、美貌と肉体を頼みに柴田勝家浅井長政を篭絡していくあたりは、目を白黒してしまうほど面白く(近年やたらベットシーンに力が入ってるような気がするんですけど、佐藤さん…)、正妻濃姫との「女の友情」的関係もなかなか泣かせるばかりか、最終的に御長が惚れこんでしまった明智光秀がとても魅力的なオトナだったこともあり、本能寺の変は、つまり愛のなせるわざだったのね!?というわけで、最後まで楽しく読めた。佐藤さんの小説は、つまるところ、男と女がいかに違う生き物かということを綿々と書いているのではないか、とワタシは思っているのだが、それにもまして、物語の中でその深くて広い河を一生懸命渡ろうとする男女の葛藤が愛おしいのだと思う。


双頭の鷲ジャガーになった男傭兵ピエールジャンヌ・ダルク、またはロメオクシタニアカポネ