豆の山

クールなハゲと美女愛好家。家事育児パートに疲弊しつつ時の過ぎゆくままなる日々雑感をだらだら書いています。ナナメな王家ファン。

 第2章 帰京 編(1巻)

2. 恋する皇太子


そのころ東京では、朝子の消息をもとめてジュリオ自らが駆け回っていた。調査をすすめるうち、朝子の母が病に倒れたことにより彼女は学業も断念し働き始めたことを知ったジュリオは胸を痛める。そして、ようやく朝子の勤務先レストラン・パリへたどりついた。
夜なべ仕事で消耗していた朝子は、レストランでもミスを連発して支配人に睨まれていたが、ここでクビになるわけにはいかない。頭痛でふらつく体を押し、朝子は注文をとりに出た。
「いらっしゃいませ…ご注文は…」
「ぼくの注文は世界にたったひとつ… きみをミス朝子を…!!」
驚いて顔を上げると、目の前にいるのはなんとジュリオ。朝子は蒼白になって店を飛び出す。ジュリオが追いついて止めるが、こんなにきたなくなった朝子を見ないで、貧乏でやつれた朝子を見られたくないのと泣いて懇願する始末。しかし、ジュリオは、君は少しも変わっていないよと言い、愛の誓いを繰り返すのだ。ジュリオの胸の中で泣きじゃくる朝子である。

なのに、そこへ突如銃弾がっ!!
マリウス公が放った暗殺部隊が、とうとうジュリオに追いついたのだ。しかし、追い詰めながらも結局トドメをさすまでには至らず、警察の気配を察して一味は早々に退散。だが、なかの一名が流れ弾に当たって取り残されてしまう。負傷者が女であることに気づいたジュリオは、この女が警察につかまっては、自分が密かに日本に来ていることが公になる恐れがあると判断し、とっさに助け、自ら手当てをしたうえで訓戒して逃がす。思いがけず皇太子の優しさに触れた女暗殺者は、彼に恋をしてしまう…。

危機を逃れたジュリオは、朝子の口から私生活上に起こった激変のすべてを聞く。苦労したんだね、でもこれからは僕がついている、と慰めるジュリオ。そして朝子がジュリオを連れて母の見舞いに病院を訪れると、今まさに容態が急変したとの知らせ。ジュリオの頼みで病院側も手を尽くすが、朝子としげるの祈りもむなしく、母親は息をひきとってしまう。

そうして数週間が流れた。
マリウス公配下の暗殺部隊が潜伏する都内のホテルに、公から5日後に王妃が皇太子を連れ戻すため日本へ出発すること、王妃の日本到着までに必ず皇太子を暗殺せよとの指令が入る。皇太子に好意を抱く女暗殺者は、暗殺計画を練り直す仲間の目を盗んで密かにホテルを抜け出す。
ジュリオと共に母の墓参に来ていた朝子は、ジュリオから母王妃がまもなく来日することを聞かされる。ぜひ将来のことを君と話したいと熱っぽく語るジュリオは、今夜ホテルのレストランに来てくれと朝子に約束させた。それから、ジュリオはホテルへいったん戻るが、過日助けた女暗殺者が面会を求めて待っているのに驚く。恋する女暗殺者は「あなたの命はあと四日、わたしを愛して下さるならお命をお助けします。陰謀の全てをお話します。私を愛して下さい。一緒にオーストリィへ帰りましょう」というのだが、朝子に心を捧げた皇太子は、彼女の愛の告白をにべもなく撥ねつけ、逆恨みを買ってしまうのだった。
その夜、オーストリィの王妃が密かに東京入りし、息子のジュリオ皇太子が逗留しているホテルに急行する。ちょうど朝子・しげる姉弟と会食中であったジュリオは、予定より早く到着した母親の姿を見て驚く。母王妃は、王位を狙って暗躍するマリウス公の目を欺くために偽の来日日程を流したのだと息子に告げ、直ちにともに帰国するようにといいつける。と同時に、先手を打って息子が執着する日本人少女藤井朝子は、王国の客として招待しようと申し出て、息子の逃げ道を封じるのである。
翌日、朝子・しげる姉弟は、帰国の途につくオーストリィ王妃・皇太子一行とともに羽田を発つ。護衛官たちは追っ手を上手くまいたと安心していたが、実はマリウス公の暗殺部隊も密かに後をつけている。一行は乗り換え待ちのためローマに4時間滞在することになり、ジュリオの発案で二人が出会った愛の泉を訪れてみようという計画が持ち上がる。かつて、二度と目にすることはないとローマ留学を断念した朝子にとって、感激もひとしおだ。
ところが、二人が泉に手を浸そうとしてまさにそのとき、背後の車中から何者かが銃でジュリオを狙っていることに朝子が気付いた。とっさに朝子は身を挺して庇う。発砲したのは、ジュリオに拒絶されたあの女暗殺者だった。
背に何発もの銃弾を受けて大怪我をした朝子は、ローマ市内の病院に運び込まれる。ジュリオは自分の血を輸血用に提供し、朝子の命が助かるように必死に祈る。

朝子が撃たれてから2ヶ月が過ぎ、ローマははや初夏の6月。
朝子はジュリオや病院の大勢の医師の手厚い看護をうけて快方に向かい、入院後初めて外出を許される日が来た。
ジュリオとともにかつてデートした名所旧跡を回り、朝子はつかのま幸福を味わう。しかし、急に雨に降られて、目の前でかすんでゆく愛の泉を見ていると、こんな夢のような幸福が長く続くわけがないと不安に駆られてしまう朝子なのであった。
一方、息子がこの2ヶ月朝子の枕頭につきっきりであることに王妃は苛立っていた。丁度、国王からレナンド公の暗躍する国内情勢と帰国を命ずる手紙が来たことにより、何とか息子に帰国の了承をとりつける。いよいよ愛する朝子に自分の国を見せることが出来ると舞い上がる皇太子であったが、王妃は朝子に対し冷静に釘を刺すことを忘れない。
「あなたをわたくしの客として招待しましょう。明日から一ヶ月間です。忘れないよう…」

朝子自身も、いつかジュリオとは別れの日が来ることは覚悟しているのだが、でも今は…今はこの幸せのなかにいたいと願ってしまうのだった。
そして翌日、ついに朝子はジュリオの国オーストリィを目にする……


⇒第3章 初めてのオーストリイ編(2巻)
1.麗しのフォンテーヌ城 へ続く