豆の山

クールなハゲと美女愛好家。家事育児パートに疲弊しつつ時の過ぎゆくままなる日々雑感をだらだら書いています。ナナメな王家ファン。

科博三昧


世間的夏休み直前の某日、上野にある国立科学博物館にて開催中の「失われた文明 インカ・マヤ・アステカ展」に出かける。私は数十年ぶりに、「はるかなる黄金帝国」(やなぎやけいこ作:旺文社)を再読したばかり(参照)、しかも7月上旬の3週に渡って放送されたこの展覧会を主催するNHKの関連特番がとても面白かったのでおおいに期待していた。この日の同行者は畏友Hさん、ワタシとは上野で逢瀬を重ね続けた古代文明迷朋友、しかも先日映画「アポカリプト」をご覧になったばかりと伺えば益々もってワタシは嬉しくてたまらない。9時半すぎに会場(地球館:去年「大英博物館 ミイラと古代エジプト展」と同じ会場→記事)に入るも、館内そんなに混雑もなく。中高年熟年カップルが目につくわねという、いつもの光景がそこにある。会場内は大まかに三つのエリアに分かれていて、密林に栄えた文明マヤ⇒湖上に都市を築いた帝国アステカ⇒アンデスの山岳地帯から海岸まで支配したインカ帝国、の順路になっている。
しかし、入る前からアポカリ生贄シーン話で盛り上がっている私たちの会話はどんどんズレていく。
「私が感心したのはね〜、あそこで、ちゃんとナイフを肋骨の一番下に差してたことなの」
「すごいな。目ェ瞑らずにあのシーンを見てたんですか!って、なんですか。あそこ心臓グッサリじゃダメなの?」
「だって、心臓の真上からだと肋骨あるから刃が跳ね返っちゃうでしょう。だからやるならここの(と自分の肋骨下を指しながら)下から斜めにナイフを入れて、そこから心臓を引きずり出すんだよね」
とニコニコ顔で血も凍る解説を始めるHさんなのであった。え〜〜〜あ、そういわれてみればそうだわよ。と自分の胸に手を当て、おもむろにポンと手を打ってしまった。今の今まで、万が一アタシが誰かの心臓を抉り出さなきゃならなくなったら、そんときはアイシス様方式(1巻参照)でイケるとばかり思ってたぞ、痴れ者だな。
そんなわけなので、入り口にあるマヤの王さまの像が刻まれた大きな石を眺めながら、これがリアルで立ち上がると映画のあの王さまみたくなるわけよ、なぁる、この後ろに垂らした羽飾りがあのタカラジェンヌみたいになって…おお王冠もここに描いてあるわ……いやぁ、この絵からデザインを起こすひとって凄いなぁ。あ、この青いメガネ仮面みたいなやつ、アポカリの神官が着けてた!とか。映画に出てきたあのピラミッドも赤く塗られてましたよねぇ。それに主人公たちが町に連れて行かれるときに、やたら真っ白な灰を被ったような人が大勢いる場所を通るじゃないですか〜あれは石灰岩を砕いて漆喰を作っている所だったんだねぇ。それを貯水池の底に塗って雨水が地中に逃げていかないよう貯めて、はぁ…よく工夫されていたんだなぁ。グアテマラの密林地帯にあるマヤ人が作った諸都市の分布地図を眺めながら、映画の彼らはどのへんに住んでいてどこに連れて行かれたんでしょうねぇ?最初海のほうに住んでいたんだよね?じゃああのへんからあそこかな〜などと二人で妄想してみたり、ゼロウルフのおっちゃんが獲物を神官に渡すとき、掌をナイフで傷つけて血を地面に滴らせてたシーンってこの「放血儀礼」でないの?とか話題は尽きない。何しろ生きた教材が目の前にあるのにチョット興奮してしまうのだった。「生贄」というのは現代人の眼から見れば、問答無用に残虐な風習ではあろう。でも、人間が神に捧げることが出来る最高の供物は何かと考えるならば、やはりそれは人間しかないんじゃないか。無力な人間が森羅万象の神々に庇護を希うとき、代償にはそれ相応のものを差し出さなければならないと考えた彼らは、ある意味とても誠実ではなかったのだろうか。マヤ人が神に捧げた神聖なスポーツとして、サッカーに似た球戯があったという。勝者は生贄となり、永遠の命を得る名誉な役とされたのだそうだ。私には決して理解できなくとも、彼らの世界で生贄役とされた人たちは確かに名誉を得たのだろう。彼らは決して虐殺されたわけではないのだ(と思いたい)。もっと大いなるものの存在を信じられた彼らは、喜んで死んでいったのかもしれない。頭の皮を剥がされた頭蓋骨や、生贄にされたあとさらに棒杭に挿して晒されたせいで大きな横穴の開いた頭蓋骨、復元されたアステカの広壮な神殿模型とかを見ながら、私はくらくらした。マヤ・アステカ文明コーナーには、神像のデザインや独特の文字の造形のせいかもしれないが、なんだか曰く言い難いエネルギーが渦巻いているような気がするんだなぁ。
そうして、インカのコーナーに出ると、今度はすっと涼しい風が吹く感じ。コーナー中央に大きなマチュピチュの模型が据えられてあり(標高2400メートルなんですと〜)、奥にはまるで眠っているようなミイラがいる。ここまで肉体が綺麗に残る土地であれば、死者に対して生前と変わりない親愛の情を持つのも無理ないし、日本のように肉体が跡形もなくなってしまう土地とは精神風土がかなり違うだろうなと納得してしまうほど見事なものだった(犬のミイラまで)。最後のコーナーにひっそり陳列されてあった副葬品の赤い布袋が目に留まった。真っ赤というよりは黒ずんで臙脂に近くなっているが、今でも鮮やかな赤色が残っている。
完璧な赤―「欲望の色」をめぐる帝国と密偵と大航海の物語16世紀、スペイン人が新大陸にやってきたとき、彼らはインディオたちが身に着けていた緋色の衣装を目にしてとても驚いたそうだ。その赤色は当時のヨーロッパの染色技術ではとても出せないような、真紅だったので。実はその真紅色を生み出す原料となったのは、サボテンに寄生するとある小さな虫だったのだが、スペイン人たちは巨額の富を生み出すその虫の正体・製法を国家秘密として18世紀まで隠し続けた。いったいあの真紅を生み出す唯一の原材料は何なのか、英・蘭・仏諸国は大変な苦労をしてそれを探り当てたのだという(このへんは歴史ノンフィクション「完璧な赤」エイミー・B・グリーンフィールド/早川書房 からの受け売り・笑)。「はるかなる黄金帝国」にもタワンティンスーヨ(インカ)皇帝の印として、「緋の房飾り(マスカパイチャ)」という品が度々言及されていたなぁ。皇帝の証とされた真紅ってそれってこんな色だったのかナァと、ふと思ったり。
あーだこーだと喋りつつ、3時間弱で見学終了。大掛かりなグッズ売り場の品揃えに圧倒されつつ、強気値段設定へのささやかな抗議をして眺めて回るだけで終る。そそられるものは沢山あったんだけども〜串焼き肉用漬け汁の入った瓶詰めとか。


お昼は、中二階の「ムーセイオン」でカツカレーを食べる。実にフツーのカレーである。レトルト?前に食べた恐竜フットバーグのほうが好きかな。。。「アポカリプト」の映画パンフレットなど広げつつ、裸男品評会とかしながら休憩。



午後は、修復工事を終えこの4月から公開になった本館(日本館)を回ることにする。私はこの本館に足を踏み入れるのは初めてだ。お隣の東京国立博物館にばかり通っていたので、ここはじっくり見たことがない。今日のところは展示もいいけど、建物を見たいのよね〜てな気分である。
本館はなんと昭和6年竣工らしいので、だから…え〜と今年で築76年になるわけね。この建物はなんでも上からみると飛行機の形をしているという。当時、国家が民衆の科学教育のため威信を賭けて作られた建物なのだそうだ。
近年俄かに注目されているのが、天井のドームを飾る小川三知(おがわさんち)の手になる美しいステンドグラス(三知は本館完成前に死亡しているが、残されたデザイン画を元に工房が作ったらしい)。これは二階翼階段壁面で見つけたステンドグラス。鳳凰かなぁ。色使いが鮮やか。好きだ!三階翼階段室天井にもそれはそれは美しい唐草模様のステンドグラスがあったが、ケータイカメラがバッテリー切れで撮影できなかった。階段部分に張られた青緑色のタイルも美しい。踏んで歩くだけなのに、こんな美しいタイル、しかもうっすら布目がついているぅ〜、を惜しげもなく足元に使うところが国家の威信というやつか。階段に這いつくばって床をチェックしてるヘンなひとになるワタシ。後で調べると、このタイルも池田泰山という名工の手になる美術タイルだった
こちらは今晩のオカズ獲って帰ったべとゴキゲンな港川人のご夫婦。隣には古代→中世→近世と衣装つけた人形が飾ってあるのだが、肌の質感とか、皺のかんじ、毛の生え具合に至るまでまるで生きているみたいに精巧なのに度肝を抜かれる。あんまりにもリアルだから一人では見たくないかも。
しかもこの室の最奥には本物の日本人のミイラが展示されてある。ひぇぇぇである。偶然見つかった江戸時代の女性のミイラだそうだ。推定20〜50歳。身長135センチというのも驚き。日本は土地が酸性なので、人間の死体がミイラになることは滅多に無いが、この女性の場合たまたま水(?)で周囲が遮断されていたそうで、こんなに綺麗に残ったんですよ、とガイドさんの説明を小耳に挟む。
これは「のび太の恐竜」にも登場したという(Hさん談)、フタバスズキリュウ(恐竜ではないらしい。首長竜ですと)の復元骨格。うつくすぃ。






最後に1階ミュージアムショップを見て回る。ここでしか打ってない限定ガチャガチャがあったのでトライしてみる(300円)。出てきたのはコレ。忠犬ハチ公フィギア。ハチ公の剥製も2階で見られる。さすが海洋堂製の見事な出来ですなっ


そういうわけで、中南米文明からはじまり、日本の科学史殿堂までたっぷり見て回ることができ、とても贅沢な一日を過ごせて満足満足。落ち着きのない私にいつも快く付き合ってくださるHさんには多謝多謝。
今度はアメ横にあるメキシコ料理店行きましょうぜ。