豆の山

クールなハゲと美女愛好家。家事育児パートに疲弊しつつ時の過ぎゆくままなる日々雑感をだらだら書いています。ナナメな王家ファン。

2007年09月号月刊 プリンセス連載分雑感

月刊 プリンセス 2007年 09月号 [雑誌]【今月のネタバレあらすじ】
シンドゥ太子の奮戦も虚しく、略奪軍の攻撃によりインダス王宮に火の手があがる。瀕死の重傷を受けたインダス王は、駆けつけた息子に民を率いて東へ移れと命令。父王から王国の未来を託された太子は、断腸の思いで父王を残し、陥落寸前の都から脱出するのだった。
一方、エジプト。インダス騒乱の悪夢を見た王妃キャロルの心も騒ぐ。悶々とする愛妃に対し、メンフィス王は大地の変化は天の神の領域であり人の力の及ばぬところだと慰め、二人はしばし豊饒の女神によって結びつけられた自分たちの運命に思いを馳せる。俄かに元気を取り戻したキャロルは、二日後に下エジプトに到着するミノス王のためのもてなし料理の準備へと飛び出してゆく。そろそろテティ自慢の新作菓子も着々と完成しつつあった。程なく、メンフィス王とキャロルはミノス王を出迎えるべく下エジプトへ出発。一行のなかには王より同道を命じられた王弟ネバメンの姿もある。
ミノス王の船はエジプト領海に入りつつあった。船内にはタルシシの荷頭だったという男プシタが乗船中。はて、あのような海の荒くれ男に一体エジプトの宰相が何の用があるのだろうと、王も将軍も、更にはプシタ自身も首を傾げている。彼らの到着予定は翌日の夕刻。
さてさて、またしても下エジプト王宮にて一波瀾ある予感……

⇒続きは10月号で。

今月から、もとなおこさんの新作「コルセットに翼を」が連載開始。エドワード朝の女学園が舞台のお話だそうだ。小公女セーラ風かしら。面白そうな出だしで期待大。来月からは征矢友花さんの連載が始まる♪「シノビライフ」と「放課後保健室」「アンニュイちゃん」「すっ!」などなにげに楽しみは増えた。ま、そういうわけで、王家砂漠で乾き死に寸前の一介の連載ウォッチャーとしては、楽しみな連載が増えるのはココロの補給の面でも大助かり。


【今月のお言葉】


クスクス
ハサン、正直に全部食っちまうからだよ
*1



【今月のも〜〜〜】
プシタ。
ギリシャ語で「炙った肉料理」のことを指すらしい。由緒正しき「シンドゥ」に較べても一発キャラで間違いなさそうな格落ちネーミングじゃの。
2006年1月号連載話にて、初めて目撃者情報がイムホテプの許にもたらされたときは「タルシシの船が炎上して沈むのを見た漁夫がいるらしい」という会話があったのだが、船主の荷頭がなんで別の漁船に乗っていたんだろうか、そこんとこワタシは気になる。タルシシの奴隷だったネバメンことへネタスと荷頭プシタは確実に面識があるだろう。ネバメンがタルシシを殺したことまでプシタが知っているかは不明だが、顔を合わせればヤツの生歴詐称がバレるのは時間の問題となってきた。
偽者の正体が暴かれるシーンといえば、「伯爵令嬢」にその手の名シーンがある。満を持してのキーパーソンの登場の仕方、その意外性、そして続く証言によってアンナの化けの皮が剥がされる一連のシーンは素晴らしかったと思う(しかも、そこに当のコリンヌ姿がないというのがまた盛り上がるのよさ)。今まで負けっぱなしだった主人公たちが、これにより一気に攻勢に転じる。あそこには、間違いなくワタシが理想とする物語的カタルシスがあった。
さてそこで翻って偽王弟ネバメンの正体バレにもそれが期待できるかと考えると、かなりビミョー、というか期待はものすごーく薄い。なんたって、思いつきで神官になったはいいが、メンフィスに一喝されてうろたえるようなネバに「脅威」なんてものが感じられるわけがない。ネバメンなんていてもいなくても全く困らないのがあのエジプト王国なのだし。敵役というのもおがましいほど小悪党。この期に及んでまだぬるいラブラブを繰り広げる王と王妃、お菓子作りで頭が一杯の王妃の眼中にも入れてもらえないネバメンが、この先エジプトを揺るがせられたら大したもの。先月発売された公式ファンブックのキャラ紹介を読んでいたとき、ネバメンの欄に「ヒエログリフが読める」とあったのを見て、おおっそういえばコイツ奴隷上がりなのに文字が読めたんだっけと思い出したが、はたしてネバメンのそういう頭の良さが、半裸で肉を食い散らしてばかりのグータラ男に成り下がるのに必要な設定だったのだろうか。「いったい誰が来るんだ。いや!おれの計画に狂いはなかったはず」とか必死に自己暗示かけるネバ哀れ。ネバの背景にやたら描かれている兄殺しセト神の壁画が単なる装飾でないことを祈ろう。
いまさら言っても詮無いことだが、野望を秘めた庶弟を出すなら、永井路子さんの「悪禅師」に登場する阿野全成っぽいネバメンが見たかったなと。武将としては天才でも政治的才能は皆無だった同腹弟義経を早々に見限り、北条氏の婿となることで兄頼朝の影に隠れたあの「王弟」をだ。独特の静かな色気と才気を隠し持つ、美男の護持僧に私は萌えた!
そうは言っても、あそこはキャラ造形も展開もなにもかも過剰な奇奇怪怪細川ワールドであるわけで。。すべてがどこかズレているのは間違いない。一時期私は自分の頭がどうかしているのかと読みながら真剣に悩んだが、最近はこっちの世界はこういう価値観で展開されるものとの諦念に到る。
先々月号(ネバメン@嘘泣きで難を逃れるの巻)を読まされた時つくづく思い知らされたのだが、なんつーか智栄子センセーの旺盛な想像力というものは、融通の利かないワタシなど到底及びもつかない次元に飛躍(?)すること度々なので(というか、まさにその点こそが面白くて読んでいるのだが)、このまま無難にプシタとヘネタスの顔合わせ――なんてことはなさそうだ。ネバメン自ら口封じに忍んで行くとキルケーに変身とかそんな展開になるのか〜それにしても、運河祭りで下王宮から王妃拉致され、やっと連れ戻したばかりというのに、またそこへお出かけするメンフィス王。昔はさぁ、来賓といえども貢物満載してテーベの都まで拝謁しにきていたのに、このごろはすっかりファラオも腰が軽くなってしまわれましたわね。ええ、まぁ軽いのは腰だけじゃございませんが。大のファラオが「も〜〜」とか言うなーーーーッ!どこの牛じゃーーー!!テンプレもどきなキャロルのからかい方も〜〜〜〜ブモ〜〜〜!!
ブモーといえば、「この惨状を知りながら答えなかったナイルの姫 恨みは忘れぬ!待っているがいい」と涙目で落ちてゆくシンドゥ太子の論法もわけわからん。まるで悲劇のヒロイン。王家の王子キャラってどうしてこういうアッチな人ばかりなの。まさかあそこで太子の悲運に読者も涙〜とかいうんじゃないだろうな。まさか!
彼の一連のセリフを読み、最後で、ハァ?と思わず雑誌に足跡つけそうになったワタシである。ナイルの王妃に一方的に妄想を膨らませ、魔性の女とか迷わされてみたいとか勝手な期待を押し付け、実物を目にしたとたんナメてかかり、んで、そのコムスメから不吉な事態を突きつけられたら一転して全面否定の太子さま。確かに、太子に相対した時のキャロルの浮ついた態度とかもったいぶった返事も決して褒められたものではなかったが、だからといってインダスを襲った悲劇がすべてキャロルの予言のせいとほざくとは片腹痛し。王国滅亡の予感に怯える父王が確証を得るべく大事な太子を遥々エジプトに派遣するほど危機感に駆られていたなら、傍に居た世継ぎのあなたはその大きな目で今まで何を見ていたのかね。父王の遺言も聞いちゃあいない太子はキャロルを恨むことで現実逃避か。わかった、貴殿の逆恨み節は十分聞いたから、この先ガンジスの山奥でもカトマンドゥでもカイバル峠越えでも、そこで象と仲良く余生を送ってらっしゃい。
それにしても、作者の好みがもともと愛>王国なのか、更には年月とともにストックが磨耗していったせいか、私には俄かに判断しかねるが、出てくる王族連中ときたらひたすら自分の感情に溺れて国を滅ぼしそうな輩ばかりってのはなぜなんだ。ていうか、細川マンガでは世間一般的に王さまとしてダメダメなキャラほど純愛一途と持ち上げられる気配濃厚。独特の絵柄もあって、各キャラには妙に生々しいパワーがあり、そこが美味い細川マンガだけど、食べ過ぎるとしすぎるとお腹壊しそう。
今月号でメンフィスがインダスの混乱に心痛めるキャロルを慰め、花トーン満開のラブラブシーンを眺めながら私は溜息が出た。あのシーンで彼が言っていることは、つまりエジプトがインダスのような天変地異に見舞われなくてよかった、という実にあけすけな告白ではないか。いや、それは別にいい。古代人メンフィスがインダスを襲った環境激変を「人知の及ばぬところ」と片付けたい気持ちはわかる。エジプト王として、自国の安全保障の範疇を超えてまで他国の民の苦難に手を差し伸べる気がないというのも十分ありえる。
でも、だったら、キャロルがメンフィスにキリスト教的愛を説く必然性がどこにあったのだろうか。あの二人が、古代世界で運命の一対であらねばならない必要がどこにあるのだろうか。大掛かりな古典的お姫さまごっこがやりたいだけの物語に、うっかり紛れ込んでしまった私が場違いなだけか。そのせいで余計ぬるいラブラブにしか思えなかったのかもしれない。
キャロルを苦しめる不安、後悔というものは、未来人であるという存在自体に根ざすものだ。メンフィスでも根本的には拭い去れない。良くも悪しくも自分で折り合いをつけるしかない。だから私はいつだってキャロルには、気丈に苦悩しつつ、優しく行動的であって欲しいと願っている。なんたって王妃になってしまったのだから、あの世界でできる選択肢も増えたはず。
なのに、このところずっと、いつもどこでもキャロル自身は完全受身、いつでもメンフィスは完全な賛美者。まして、「一生懸命なところが愛しい」などお墨付きまで与えられては、いつもの寒々とした気分に襲われる。その後に続くわたしのしあわせはいつもあなたのそばというキャロルのセリフも虚しいだけだ。
幸せな彼女を取り巻く王家の世界はいつでも彼女に優しい。間違ってもキャロルが優しいのではなく。いや、彼女自身も昔は優しかったかもしれないが、今は自分は優しいと勘違いしている鼻持ちならない女になってしまった。
幸福な人間の語りはつまらない。
かといって不幸に溺れる人間の語りはもっとつまらないが。
ことほどさように、王家における私の理想を見出すのは難しい。



さてさて、今月も(悪い)期待を裏切られないという意味で面白かったが、その他のネタ。
「ラブラブ王家」コーナーにて「今冬ついに発売されるイラスト集への希望を送ってね」との告知発見。そぉねぇ〜私は智栄子センセのカラーイラストの描き方が知りたいな。下書きから始まって彩色→完成までの作業工程の解説とか、こだわりポイントとか載せてくれると大喜びするですよ。うむここはひとつアンケートハガキでも書いて嘆願でもしてみるかいな。

*1:なにげに要領のよさを披露するルカ。新作菓子の味見に付き合わされた旅商人を慰めて。