豆の山

クールなハゲと美女愛好家。家事育児パートに疲弊しつつ時の過ぎゆくままなる日々雑感をだらだら書いています。ナナメな王家ファン。

「諸葛孔明 時の地平線 (14)」諏訪緑


諸葛孔明時の地平線 14 (14) (プチフラワーコミックス)とうとう最終巻を迎えてしまった。7月に発売されてすぐこの巻を買い求めたのだけれど、さりとて酷暑続きでなかなか読む気にならず、夏の間中ずっと本棚に飾ったままだった。いざ読み始めると、やはり三国志に昏い私にはかなりの歯ごたえ。細かい伏線復習のため前巻を読み直そうと押入れを漁ると、あれ〜ない!?そういえば、1巻からごっそり友人に貸したままだったと思い出す(嬉しいことに、彼女もこの諏訪三国志をとても気に入ってくれたらしく、自分でも買い揃えたいという感想メールをもらった。)
んじゃまぁ、仕方ないなぁと、私はチマチマ読書を再開。一度目はなんだか情報処理で頭の中がいっぱいいっぱい、感慨以前に疲れてしまったがが、しばらくして内容を消化できたかなという頃に二度目を読み直してもたらば、馬謖の養父の臨終シーンでの言葉にぼろぼろ泣く。子竜との別れにも涙腺崩壊。
彼らの死が悲しくて泣くのではない。あのようにしか生きられなかった乱世の子らの、それぞれの生き様に私は感慨無量なのだ。個人が入り乱れてこそ織られる物語といえど、彼らの視線は常にはるか遠くを見ている。切ないまでの祈りを込めて。そして手から手へと、彼らの祈りは伝わる。
「時の地平線」とは上手くつけた題だと、今さらながら思う。


魏延 わたしは一石を投じたいと思っている
 暴力が平和への早道だと声高に叫ばれるこの時代に
 暴力を否定し平和を構築することを
 その方向性だけでも実践することを
 これは劉備さまから引き継いだ私の仕事だと思っている 」



本作の主人公、諸葛孔明も「玄奘西域記」で玄奘三蔵をあのように描いた諏訪さんらしい、いかにも聡明である意味苦労性な青年理想家だったと思う。しかし、彼が語る言葉の数々は実に血が通っていて何度も唸らされた。孔明のことを青臭い理想ばかり吐く説教家と鼻白まずに読めたのは、孔明を取り巻く人たちの背景までよくよく考え抜かれて造形されていたからだ。だからこそ、この物語のなかではキャラクターの言葉が浮かないのだと思う。諏訪さんはこの物語の中で、第一印象ではわからない内面というか、周囲との関係性によって、あるいは対話を通じてやっと浮かび上がってくるそのひとの「個性」というものをこそ書きたいのかな〜と読んでいて何度も感じた。そこが、この諏訪三国志のなかで私は一番面白かった点。実在の司馬懿はどういうひとだったのかはよく知らないが(三国志演義での彼は憎たらしい敵役というイメージがある)、私はあの骨の髄まで公僕体質な仲達ぼっちゃんが好き。そんで、諏訪さんの描くがっちりした肩幅の長身の男性の体つきが好きなのだ(馬超とか、黒尽くめ子竜も大好きだ)。主人公たちがあんまり老けなかったのは、ちょっと苦笑いさせられたけど、まぁいいやね。
最後に付された参考文献リストも興味深かった。このマンガでは、主人公たちが「蜀」陣営なので、勢い西方の「異民族」(漢民族以外の民族)出身のキャラがたくさん登場する。お話の流れ上、彼らが必要だったのかもしれないし、史実でもそういう絡みがあるのかもしれないが、何より彼らの存在を諏訪さんが好きで、愛情込めて描いているんだろうなぁという印象を強く受けた。どういう模様だろ?と見入ってしまうような民族衣装の数々、細かい服飾品、顔立ちまで敢えて描き分けているところとか。次回はどんな話を描いてくれるのかな〜と楽しみな漫画家の一人である。

諏訪緑さま。
お疲れさまでした。この作品を描いてくれてありがとうございました。
次回作楽しみにお待ちしてます。