豆の山

クールなハゲと美女愛好家。家事育児パートに疲弊しつつ時の過ぎゆくままなる日々雑感をだらだら書いています。ナナメな王家ファン。

「転生―古代エジプトから甦った女考古学者」


転生―古代エジプトから甦った女考古学者

転生―古代エジプトから甦った女考古学者


1970年代、エジプトはアビドスの遺跡に、不思議な婦人の姿があった。
「オンム・セティ」(セティの母)と呼ばれた彼女は、古代の巫女のような衣装をまとい、神殿を隅々まで裸足で歩き回って、訪れた人々に詳細な解説を語って聞かせた。もともとの名をドロシー・ルィーズ・イーディと言う彼女はアイルランド系イギリス人で、若い頃、英国の著名なエジプト学者に教えを受けた人だった。29歳のときエジプト人男性と結婚してエジプトに渡り一子セティを産むが、数年後に離婚。彼女はエジプト考古局職員として職を得エジプトに留まり、ついにはアビドスに棲みついて76歳で生涯を終えた。彼女の広範な古代エジプトに関する知識は学者からも一目置かれ、一流の学者とも交流があった人であったが、彼女の中にはそうしたアカデミックな世界とは別の、もう一つの物語が死ぬまで息づいていた。
それが、自分は3000年前アビドスの神殿の巫女であり、時のファラオ・セティ1世と愛し合ったという前世の記憶。それは彼女が3歳のとき階段から転落して、一時仮死状態に陥った後、目覚めたときから始まったものだったという。



正直、私は「前世」などというものに全く興味はないし、嬉々として自分の前世やら霊感体験やらを語り出す人にも極力お近づきになりたくないのだが、この本はそこまでオカルト臭はしなかったので、わりとすらすら読めてしまった。「転生」やら「古代エジプトから蘇った〜」とかいう題はおどろおどろしくて、とっつきがよくないのでは?とも思うが、この本の原題は「The Search for Omm SETY ―― a story of eternal love」という。伝説となった「エジプト学の守護聖人」を追ったノンフィクションだ。作者の視点が科学コチコチでもなく、かといってスピリチュアルばりばりでもないので、読後感は悪くはない。私としては、ドロシーこと、オンム・セインの前世の記憶の是非や、セティ王の幻の解明などはどうでもいい。要するに、彼女は彼女の愛の物語を心の支えにして、誰が何と言おうと思うように自分の人生を豊かに生きたのだなと、ちょっとほろりとしてしまった。孤独に生まれ、孤独に死んでゆく我ら人間には、どんな形であれ自分だけの物語が必要なのだ。
たとえそれが誰かと分かち合うことができなくとも。

彼女のような人こそ、'The Happy Few'と呼ぶにふさわしいのだろう。