豆の山

クールなハゲと美女愛好家。家事育児パートに疲弊しつつ時の過ぎゆくままなる日々雑感をだらだら書いています。ナナメな王家ファン。

2005年2月号プリンセス掲載分雑感

【今月ネタバレあらすじ】
高熱を発したキャロルは、助けられた農夫の家でも重篤な意識不明症状が続いていた。ハサンの必死の尽力により何とか意識だけは取り戻すが、まさにその時、家の正面にキャロルを探すバビロニアのラガシュ王と部下たちが現われる。薬の残り香を怪しんだラガシュ王は抜刀して家捜ししたものの、農夫の機転により間一髪のところでハサンとキャロルは難を逃れることが出来た。彼らが立ち去って後、カレブが合流しハサンたちは農夫の家を発つ。続いてヤドナナも加わったキャロルたち4人組みは、おびただしい炬火が揺れるバルバリソッス河港を見下ろしながら、夜陰に紛れてユーフラテス河を離れていった。その頃、キャロルを探すメンフィス王は、河港を目指して部下を集結させつつあった。そしてそこで、メンフィスはアッシリア兵と彼らを指揮するアッシリアのアルゴン王の姿を見出す。アルゴン王もメンフィスの姿に気づき、はてさて恨み重なる宿敵同士の対決の顛末やいかに。

→以下、3月号に続く


【今月のお言葉】
「いやいいんだよ。早く行きな夜の間に。
きれいなあの娘さんを助けてやってくれ 
奴隷にされて病で死んだわしの妹の代わりになあ…」
*1


【雑感】
このキモチをなんと言うか、嬉しいというか切ないというか困惑気味というか…ともかく、私が「王家の紋章」にストーリー上の面白さを期待せず、全般的に生温かく眺めるようになった今頃になって、ようやく、ストーリーが動き出したのはめでたいことである。といっても、目が冴えて寝られないくらい面白いとは口が裂けても言わないが、とりあえず、姫さまがエジプト王宮にてキツネキツネと泣き喚き、御夫君が頭をボリボリ掻いていた頃の連載一読後のあの不快感を思えば、今月のもどかしさなどは、さながら蚊が刺したレベルといってよい。あとは行く手に薄明かりが射し、ゴールが見えてきたことを祈るだけでしょう。
いやいや。
スカした口上はさておき、とうとう次号では推定40巻ぶりにアッシリア王とエジプト王の仕切りなおし戦が繰り広げられるかもしれない、となれば天邪鬼な私でもちょっぴり期待で心躍ろうというもの。いくら作者が“私はね「愛」と「夢」と「誠実」と「思いやりの心」を読者に贈ろうと思って描いているんです。一番それが大事なテーマ。永遠のテーマです。”(2005年月刊プリンセス新年特大号別冊ふろく「王家ナビ」49頁より)とおっしゃろうと、私はアルゴンだって自分なりの「夢」を抱く自由があると信じる人間なので、悪役にもそれなりの矜持をもたせて死なせてやって欲しいのだ(つーか、勝手にアルゴン殺すなよ)。

今月は、アルゴンもラガシュも我こそは先にキャロルを手に入れて優位に立たんと血眼になって捜索する内容が幸いしたのか、余分な脱線がなく、しかもけっこうスリリングな展開になっている(まぁ、ものすごく定番のそれだけど…)。表紙カラーで登場してるラガシュ王が久々に殺気ビシビシなのも嬉しい。藁の山を調べたいなら、刀を斬り下ろすんじゃなくて、突き刺して調べろよとツッコミしてしまったことはこの際脇に置いといて。オムリ大臣ですら、しゃきっとしたいいツラ構えだったし、主従ともども15〜17巻のバビロニア陰謀編を思い起こさせるムードで個人的に実に美味しいショットが多かった。

ひょっとしなくても、女が絡まないほうが彼らの良さが出るのではないのかなあ。
そう思ってしまうのは、きっとハサンの言動に度々めまいを覚えたせいであろうか。
先月もハサンの叱咤激励に対してブツブツ言ってしまった私だが、はっきりいって、今月のハサンのセリフは鬱陶しいことこの上ない。キャロルを乗せた駱駝を引く後半はともかく、看病する前半がサブイボだっつーの。
のっけから「なあ、思い出してくれ〜」とバビロン受難編の思い出をぺらぺらぺら暑苦しくまくし立てコマは、初読者へのサービスで涙を飲むとしても、キャロルの手から膿を吸い出すくらいで鼻斜線入れてんじゃねぇ(怒)そんなこと(=メンフィス王に知れたら首が飛ぶ)考えてる場合かーーーって自己ツッコミしてる場合かァーーーーー!!見てるこっちが恥ずかしいわ!カマトトぶっていいのは16歳までじゃ(青筋)そんな柔い根性で砂漠が渡れるかボ(以下自粛)

ああ、どうして王家世界住人は恋をするとこうまでアホアホ全開になってしまうのよ。恋ゆえのアホさはそれなりに可愛いけど、今までその人を輝かせてた魅力が失せて、キモくなっていくのは可哀想だ。だいたい、ハサンはキャロルがエジプト王宮からヒッタイト兵にさらわれたって聞いて、ここまで捜しにやってきたのでしょ??(生憎その掲載部分を廃棄したので確認できないが)
「今回の事件はイズミル王子が企てた深遠なる策謀では…!」
⇒「その計画がどこかで狂ってお姫さまが奴隷に――」
⇒「そうだ そうにちがいない」

このセリフの脈絡がマジで私にはわからないんだ、ハサンよ〜
ヒッタイト兵が黄金のお姫さまをさらう→それは彼女にホレてるイズミル王子に命じられたから」という命題はハサンのなかでは丸きり成り立たっていないのかね。しかもご丁寧に「深遠」な形容詞つけますか。ハサン思考の前提に「王子の目論見どおりにコトが運んでいたら、姫さまがこんな怪我なんてしなかったはず」という確固とした思い込みがあるんだね。昔、チグリス河岸で追いかけられたのがよほど怖かったのね。
しかしだね、ハサン。「策謀」というも烏滸の沙汰。今回のあれこそただの人さらい、それもすごく荒っぽい誘拐でしょうが。そのうえ直後にバレて、追っ手がかかってますが?もしあれが「深遠なる」だったらベン・スペンサーの息子のやらかしたアレは底なしと呼んでやるよ。ったくもぅ、前からアンタっていう人はイズミル王子に対してビビる傾向があったにせよ、妄想を逞しくしすぎてナントカも枯れ尾花はたいがいにせえっちゅうの。ビビりすぎたのか、ハサンの妄想中の王子は脳内美化度甚だしいよな。それに「王子は本気でホレてる」って、じゃあアンタはキャロルに本気でホレてないんか!?誰の指図も受けねえって商人の誇りを譲ったのは何のためよ?え?
「おお〜胸の鼓動が早鐘のように打つ」(ぱったり)
とまぁ、王様陣がそこそこ頑張っていたせいか、ハサンの溶解度に萎えてしまった今月号だった。キャロルの意識が戻ったのはいいとして、助けがくると直ぐ甘えた態度になるのはこのお嬢さんの困ったところだ(いかんせん、ただ今彼女は瀕死のひとなんで大目にみたいが)。このところキャロルの表情が澄んで、綺麗になっているところはいい感じかな。今の彼女は「きてくれてありがとう」「助けてくださってありがとう」と心から言ってるんだろうなと思えます。ハサンのセリフじゃないけど、「先はどえらいが
」まぁ、頑張れキャロル(と同行者のみんな)。

現時点で、アルゴン・ラガシュ・メンフィスと終結しているということは、イズミル王子が傍まで来ている可能性が高いよね〜(ため息)。それよりアイシスが来てくれ。そしてアイシスに殺されかけるキャロルを助けて、株をあげてみたらどうかな、イズミル王子サマ。

作者曰くメンフィスというひとが「私の希望と夢です」(同上、48頁より)だというなら、自分の幻想にしがみ付く王子のあの有様は何の結晶なんですか……。謎は深まるばかり。アルゴンより先にキャロルを見つけねばといいつつ、大声上げて「おおあれはーーーアルゴンーー!」と叫んだばっかりにアッシリア兵に見つかってるメンフィスの行動もおおいに謎だが。

その他、小さいシーンだけど、今月はやはりあの無名の農夫のおっちゃんの優しい人柄が光っている。巧みに言い繕ってラガシュ王の注意を逸らし、出発間際お礼にと袋を差し出したハサンに「いやいいんだよ。早く行きな夜の間に。きれいなあの娘さんを助けてやってくれ 奴隷にされて病で死んだわしの妹の代わりになあ」っていうセリフにはただ涙。天使っていうのは、案外こういうゆきずりの人の中に存在するんじゃないか?ベタといえばベタだけど、こういう小さくても奥行きのあるエピソードは個人的に好きなのよ。ええ、そりゃ小動物とか子ども持ってこられるよりよっぽど泣きますよ私。

余談ながら、私は「阿漕(あこぎ)」という言葉はてっきり関西弁だと思っていたので、読み終わって速攻辞書引いてしまった。
「阿漕」=「非常に図々しいやりかたで、ぼろいもうけを狙う様子」(新明解国語辞典
バザルを評する言葉として意味は合ってそうだが、わざわざこれを使わなくてももうちょっと柔かく「ひとでなし」とか「悪徳商人」あたりでも良かったのでは?まぁ、もともと王家のセリフは時々「命冥加なイズミル王子め!」級の古い言葉が飛び出す傾向があるけど(小学生のとき私はここが読めずに辞書引いた。いのちミョウガ=幸運のことだそうである。「ゴキブリみたいな奴」の雅語であろうか。)。
阿漕というのは、三重県津市の地名からきていると辞書にも記載があるが、そもそも阿漕という地が伊勢神宮の社領だったことに由来すると聞いたことがある。お伊勢さんの私有地ということは、つまりそこは禁猟区ってことだから、「阿漕で生き物を取るような不心得モノ」の意味から派生しているんじゃなかったっけか。何はともあれ日本語って面白いなぁ。王家言葉もね。


1月12日に発売される文庫の表紙が出ていたので貼り付けておこう。
バビロニアが舞台の15〜17巻あたりが収録されるとすれば、アッシリアの神獣ラマッスは関係ないんじゃないかと思うけど、見栄えはするな。
王家の紋章 (8)

*1:崖下民家の一農夫