豆の山

クールなハゲと美女愛好家。家事育児パートに疲弊しつつ時の過ぎゆくままなる日々雑感をだらだら書いています。ナナメな王家ファン。

 2005年8月号プリンセス連載分雑感

【今月ネタバレあらすじ】
大火事となったユーフラテス河畔で、とうとうキャロルを見つけ出したイズミル王子。キャロルの容態が重篤であることに気づいた王子は、怒りのあまりその場に居た旅商人ハサンを切り捨てようとする。だが、逆にハサンから彼女がここまで体調を悪くしたのは、運河祭りの日に拉致されて以来、苦難続きであまりに過酷な目に遭ったためだと指摘され、拉致を指令した当事者たる王子は忸怩たる思いに駆られるのだった。そうこうする間にも、ますます火の勢いは激しさを増し、一行は王子の指示で近くの涸れ谷にある洞窟に身を潜めることに。ハサンの看護で、キャロルは意識を取り戻すが、イズミル王子の姿を目に留めるや、激しい口調で彼を拒絶し、なぜ自分をこれほど苦しめるかと詰るのだった。イズミル王子は愛するがゆえにますます女を追い詰めてしまったことに苦悩する。一方、彼らの後を尾行する怪しい影があった。それは十数年前、甥にあたるイズミル王子暗殺を企んだものの露見してヒッタイトを追われたウリアとその息子ジダンタシュだった…。

⇒以下9月号に続く




【今月のお言葉】
「なぜ王子はいつもわたくしを追いつめるのーっ なぜなのわたくしをこんなにも苦しめるなんて わたくしはエジプトの王妃です 兵士を使ってわたくしを無理やり王宮から拉致しヨルダンからシリア砂漠を引きまわし わたくしは わたくしは奴隷におとされ死ぬほどに苦しめられた!どれほどに辛い思いをしたか なのにまだこれ以上わたくしを苦しめようとするの王子 おおそばへ寄らないで」
*1



【今月のグダグダ】
スターウォーズ」も28年目にして完結した。
29年目の「王家の紋章」はどこへいくのか。
アメン・ラーのみぞ知るってか。
単行本50巻8月16日発売予定。
今月本誌で50巻表紙が発表にされてたが、あれが採用されるとは個人的にはチョット意外。あのイラストは2004年1月号のカラー表紙に使用されたもので、元々見開き2ページ分の大きさがある。これを単行本サイズに右を切ってしまうと微妙にアンバランスな感は否めない(原画は両脇の有翼女神のバランスともに大変美しい一枚)9月号、10月号の2号連続でオリジナル図書カードプレゼント(500名)企画ありとのこと。


で、本題なのだが。
まず初めに、身も蓋もなく書いとくが、ワタシは(今の)イズミル王子が苦手である。
昔もいい加減彼のことは苦手だったが、ここまで苦手じゃなかったように記憶している。
大体ワタシは悪役が美形だろうがブサイクだろうがほとんど気にしない。悪役に必要なのはアタマの回転に裏打ちされたルサンチマンなエネルギー、底に秘めたる悲哀の影。一度見たら忘れられない濃いパフォーマンス、が全てである。クサい悪役こそは、そこいらの小娘や若造に図星を指されたくらいでオタオタしてはならぬ!そんなときは、平然と「それがどうかしたか?」とのたまうくらい面の皮が厚くないとならぬ!という断固とした偏見をワタシは持っている。
というわけで、昨今のイズミル王子の繊細な言動はワタシの好みから大きく外れているのである。最近の王子における目を覆いたくなるようなドラマティック症候群というか、どこを向いても「わたしがわたしが〜おおわたしが〜〜わたしのせいで〜〜」ナルシスト体質は正直どうにかならんのか?世界はアナタが嘆くほどアナタ中心に回ってないんだからさ(いや回ってるのか、王家ワールドでは)。自己陶酔癖極まったあまり、2ページぶち抜きでポエマーやらかすこの方が出てくると、ただでさえ展開遅い話がもっと遅くなるっつうの。でもって、今月もやはり進んでないのだ。

目覚めたキャロルは、それまでの重病人の影はどこへやら、「なぜ王子はいつもわたくしを追いつめるのーっ なぜなのわたくしをこんなにも苦しめるなんて わたくしはエジプトの王妃です 兵士を使ってわたくしを無理やり王宮から拉致しヨルダンからシリア砂漠を引きまわし わたくしは わたくしは奴隷におとされ死ぬほどに苦しめられた!どれほどに辛い思いをしたか なのにまだこれ以上わたくしを苦しめようとするの王子 おおそばへ寄らないで」と立て板に水の如き長セリフ一気。スゲェ。
イズミル王子の求愛行動(動物か?)に対するキャロルのここまでの冷たさ=ニブさは初期から不思議なほど一貫していて(最初の印象が最悪だったせいもあるとは思うが)、それがまた王子のファンをヤキモキさせたり、それが嵩じてキャロルに反発を覚えさせたりする原因のように思う。ワタシはそこまでこのイズミルという不可解なキャラに思いいれがないので、王子の「想いを叶えて欲しい」とか思ったりすることはないが(判らないのは、判らせることができていない側にも責任あるだろう)、今回の両者の邂逅こそは不毛な水掛け論で終わらせないでほしいと切に願うのである。
いい加減に、追う男と逃げる女、迫る男と拒絶する女以外のバージョンでキャロルとイズミルのやりとりが見たい。じゃないと王子はこのさきずっと鼻を染てばかりのピエロでしかないし、キャロルもうすっぺらい悪女でしかなくなるだろうに。そんなヒロイン見たいか?

それにしても、久しぶりに再会した愛しい娘の重態に気もそぞろな王子サマは、当の娘にこう(↑)まで痛罵されても「天空に火の粉舞うこの大火より逃れ ともに無事ヒッタイトに帰り着いたならば 姫よ おお どのような罰もこの身に受けようぞ そなたはわが妃 わが愛するは天にも地にもそなた一人」と空ろな目でモノローグ垂れていなさる。

“帰り着くことができれば”「罰を受けよう」なんて、随分ムシのいい話だなと思ったりするのだが、肩にン年も銃弾を埋め込まれ、体調とクールな芸風を崩した挙句、好きな女にどれほど言い寄っても相手にされないという今の以上の業罰を望むなんて、あなたはホントに不幸が好きね、イズミル王子。

そこではたと思い出した。
このあいだ映画「クローサー」マイク・ニコルズ監督)を観たとき、ひとつ唸るセリフがあったのだけど、それはラリー(クライブ・オーウェン)が妻のアンナ(ジュリア・ロバーツ)を評してこういうやつ。
「アンナは欝が好きなんだ。だから不幸を必要とする。彼女のような人は毎日が幸福だと落ち着かない」
とかなんとか。

ちなみに、原文はこうだった↓
 Larry:She doesn't want to be happy.
 Dan: Everybody wants to be happy.
 Larry: Depressives don't. They want to be unhappy to confirm they're depressed. If they were happy they couldn't be depressed anymore. They'd have to go out into the world and live. Which can be depressing.

もしや王子もアンナみたいなタイプなのだろうか。
あーだから、極楽トンボなワタシは彼が苦手なのだな。

ま、王子の過去・未来はさておき、今月もおやと思うネタがひとつあった。ここ最近の連載はこの手の小さなオドロキ(先月はアイシスの懐妊発覚)があって、長丁場に行き倒れそうな私にささやかな潤いを与えてくれるのである。
今月は、イズミル王子至上主義帝国ヒッタイトにおいて、今や貴重なポジションを占めるアンチイズミル派の筆頭、ヒッタイト王姉ウリア&ジダンタシュ王子の親子が出てきた。どうもヒッタイトの隣国、山岳地帯のウラルトゥ王国に身を潜めていたらしい。ジダンタシュが十数年たって大きくなっても脳内筋肉な乱暴男でしかなさそうなのが不安だが(しかし黒白くっきりの細川ワールドでは悪役は成長しないのが掟だから嘆いてもムダよね)、ワタシはこのしたたかなウリア伯母上のキャラクターはけっこう好きである。確かに歪んでいるが、バカ息子を持ってしまった執念の母、日陰の身に落ちた未亡人として、ある意味もっとも理解出来る描かれ方をしている悪役ではないか。古い文献だと、「ウラルトゥ王国」のことを「ウリアルトゥ」と表記してあるものを見かけるので、ひょっとしたら細川センセも「ウリア」の名前は旧約聖書の人物じゃなくて、こっちから採ったのかなと思ってたりしたのだが、ちょっと縁はある?のかも(ジダンタシュの父親がどこの誰かは今も不明だし)。次回、キャロルを掻っ攫ってみませんか、ウリア伯母様?地震か地すべりも起こりそうだし。もうなんでもありよ。

*1:キャロル