豆の山

クールなハゲと美女愛好家。家事育児パートに疲弊しつつ時の過ぎゆくままなる日々雑感をだらだら書いています。ナナメな王家ファン。

2006年3月号プリンセス連載分雑感


【今月号ネタバレあらすじ】

  • 避難民でごった返すユーフラテス河畔のとある集落にやってきたルカは、怒り心頭のハサンに出くわす。ハサンからナイルの姫がヒッタイト兵にさらわれ奴隷の身に落ちた経緯を聞かされたルカは愕然、さらに弱りきった彼女が今や主君の仇敵ジダンタシュの手に落ちたといわれて顔面蒼白!
  • ハサンとルカは手分けして「毛皮を身に着けた異国の大男たち」を捜すことで合意し、聞き込み開始。たちまちルカはその一団がユーフラテス河へ向かったという情報をつかむ。
  • そのとき、群衆の中からハサンを呼び止める声が。カレブとヤドナナが合流。
  • ヤドナナからエジプト兵の目撃情報を得たハサンは、メンフィス王が愛妃を探してこの地に来ていることを確信する。内心焦るルカ。
  • この局面でさらに新たな参加者登場。アマゾネス女王ォ〜!元気になったヒューリアからナイルの姫拉致の知らせを受けて、恩返しに馳せ参じた模様。ああお腹いっぱい。
  • その頃、ユーフラテス河上流の山上の廃神殿に拠点を移し、情報収集中のメンフィスの元に商人ハサンの使者としてカレブ(とヤドナナ)推参。「ジダンタシュと申す大男がナイルの姫を連れ去り、火災を逃れたユーフラテスの下流の河岸の村のどこかにおいでになる」と伝言する。やっと妃の居場所に繋がる確実な情報を得て、メンフィスは捜索のための河舟手配を命ずる。キャロル〜
  • あ、メンフィスが呼んでる、とキャロルの受信も良好。いやいやハサンの薬の効果が切れたため、熱がぶり返して体調最悪。一方、隣室のジダンタシュ様ご一行の酒宴は絶好調で盛り上がり中。
  • ルカとハサンの必死の捜索続く。崖下に馬の嘶きを捉えたルカがジダンタシュの潜伏先を見つける。気づかれては姫の命が危ないと、慎重を期するルカ。
  • メンフィス王指揮の河船出発、陸から捜索中のウナス隊と連携して下流を目ざす。
  • そろそろかなりきこし召してきたらしいジダンタシュ、酔っ払った勢いで今夜にもイズミルの幕舎を襲撃しようと母に提案する。母も大喜び!ついでにジダンタシュは入手したばかりのエジプト製半月斧の切れ味を試すべかと、イズミル王子への手土産代わりに黄金の姫の細切れなんかどう?とばかりにキャロルを監禁した部屋へ。
  • わたしはエジプトの王メンフィスの妃どうしてこんなことになってゆくの〜〜?とパニックキャロル

→続きは2ヶ月休んで6月号で。



【今月のお言葉】

「そなたが王子を打ち殺し一日も早く世継ぎの王子の地位を取り戻してくれるのを母は見たい!そしてわたくしを・・・・・・国から追放した弟のヒッタイト王の驚く顔をみてやりたい。」
*1



【今月のグダグダ】
ピュアな愛をつむぎ続けて30年…
だそうで、「王家の紋章」にとって今年は節目の年である。
いろいろ記念企画が続くようだ。まず第一弾は、来月の本誌につくイラストカレンダー付録(4月〜来年3月分)。細川センセのイラストが好きな私としては、これは素直に嬉しいニュース♪全プレじゃなくて「付録」ということだから、モノはたぶん一枚ポスターみたいなものだろうけど、なるべくいい紙で綺麗に印刷したやつだといいなあ。

カラー表紙は手にハス一輪持ったキャロル(ちょっと大人びた表情か?)、その後ろに鬼のような顔したメクメクがいたり(ちょっと腰まわりスッキリしたか?)キャロルが被った天冠、古代エジプトのシンボルを洒落たデザインでアレンジしているのが目を奪う。こういうの好きよ☆
話は今月もかなりスピーディ。なにせ、メンフィス王は必死で探しているキャロルはイズミル王子の天敵ジダンタシュに囚われている、との直近情報を掴むところまで来ちゃうとはあたしゃ驚きましたよアメンラー。ユクタスパンツスタイルなファラオってば、ここまでのところ、怒髪天で走り回ってる割には偶然のなりゆき頼りでなんか無駄に消耗してないか?大丈夫か?って感じだったのだが、ここで一気に攻勢に出るのねぇぇ〜!って、でも今回一番の功労者はハサンだけど。いや、それよりヤドナナだよなな(“花婿のメンフィスさん”がえらい美形なんでぶったまげてる彼女に笑)。カレブともども無事でよかったョ。

一方、先月ラストでハサンにどやしつけられ、今月からまたまたメインで絡むことになったルカは、久しぶりに間者の本領発揮で、頭脳フル回転の才気あふれる活躍をみせてくれる。別に君がキャロルを不幸に落としたわけじゃないと思うが、私のせいだぁ〜という罪悪感が今のルカのターボエンジンみたいだな。さしずめM体質なところはご主君似、そのうえ「わが主君イズミル王子は・・・積年の想いがかない世にも稀なる叡智あるやさしい姫君を迎えられて今!至福の時を過ごされていると信じていた!」だそうで、ドリーム激しいところも似てるわな。彼がハサンと出くわした最初に、自分が姫さまの危難について何も知らないとボロを出しちゃったのはちとマズかったかもしれないが(少なくとも“拉致直後にエジプトから追いかけてきたふり”くらいしといたほうがよかろう。ウナスにもきっと突っ込まれるぞ?)、まぁハサンもハサンだから(?)そのうちルカの挙動不振なんざけろっと忘れてくれるだろうと思われ。さてそのうえ、この期に及んで火事場にアマゾネス女王まで呼び寄せるとは。あと有名どころの脇役で来てないのはライアン兄くらいじゃないか?いやぁ、すごいなぁ。何がどうなるのか全然わからん。わかりたくないが。

さて、王家の未来図はおいとくとして、イズミル王子幼少時編に小ルカも出てたかね?このへん(43巻くらいだったかな)コミックス持ってないので忘れてしまったのだが、今月号でヒッタイト王の姉 あの恐ろしい女ウリアさまがいる!気づかれては姫君のお命はない」とルカが蒼ざめているじゃないの。会ったことあるのかルカ?それともヒッタイト人にとってのウリアさまって恐怖の女王か?(笑)せっかくこれだけイズミル王子サイドを震え上がらせてるんだから、この際徹底的にその煙幕を活用してくれないものか〜と思ってしまうのだ。王子をマジで痛めつけたいんだったら、キャロルの首より血染めの髪で恐怖を長引かすほうが効果があると思う。あなたの甥っ子氏はなにぶん妄想力逞しい方ですからね。ていうか、また先月雑感の蒸し返しになりますが、イズミル王子はヒッタイトに対する大事な切り札なんだからすぐに殺そうとしちゃダメざんしょぉ〜縄つけてでも連れてくべきなのよっ!キャロルと一緒だったら王子はぐぅの音も出ないんだから。逃亡の足手まといだから人質を得なくなるにしても、せめてイズミル王子はエジプト王にやられたように偽装したほうが息子をヒッタイト王に据えるためには有利じゃないんすか〜ええ、クリーンハンドの原則ちゅーやつですよ(意味違)。メンフィスたちにはイズミル配下を狙わせ、イズミル配下にはエジプト兵を疑わせて、両者疑心暗鬼で一挙殲滅を狙うべきなのよ〜ウリアさま!!

と、こうまで陰険な筋書きを披露してしもーたうえはバレてると思うが、私にとってこのウリア伯母上という女性はわりと好きなタイプの敵役キャラである。好きというと誤解がありそうだが、要は妄想いじりやすいといおうか。細川センセが文字通り絵に描いた悪役にも、もちっと情けをかけてくだされば嬉しいのだが、今月号では親馬鹿ウリアは酔っ払った息子が言い出したキャロル細切れ案に大賛成するなど、邪悪味も3分でチンな速攻型なところをみると、やはりあの方も負け犬キャラで終わるらしい。
いいけど。ワタシは柱の影から見守ってますわよウリアさま。

ウリアはヒッタイト王の姉だというけれど、彼女自身はどのような生まれのひとか(同母姉なのか異母姉なのか)、誰に嫁いだのか(相手は外国人か同国人か)、どういう事情で未亡人となったのか、なにゆえに十数年前ヒッタイト王宮で息子ともども客分待遇だったのか?ウラルトゥに潜伏できたのは何らかの地縁血縁でもあるのだろうか?とかetc.個人的興味はつきないひとなのだ。「今月のお言葉」に、ウリアの台詞を採用してしまったのは、彼女が甥イズミルの抹殺を企む動機のひとつに、自分を追放した弟王に一矢報いてやりたいと言う心情が働いているらしいというのに、なるほど!と思ったからである。

愛と憎しみは双生児だ。ウリアという女性を、息子可愛さに目がくらんだ馬鹿母、息子を蛮行に使嗾する非道人間、逆恨みする卑劣女と嗤うことは容易い。しかし、どうしてだか私は彼女の妄執を嗤う気分にはなれないのだ。私には子供はいないけれど、母性の観点でいえば、賢婦人の誉れ高い乳母ムーラやアイシスの乳母アリに比べてこのウリアの母性だけが異質だとは思えない。同時に、弟を憎むウリアと弟を熱愛するアイシスを比べても、そんなに違うとは思えない。アイシスがバビロニアの力を借りてでもエジプトを望んだのは、自分を拒絶したメンフィスを、憎悪でも何でもいいからもういちど振り向かせたかったからではなかったか?(そこが最近の夢見るアイシスとは違う点)。

ウリアは、イズミルが死ねば、世継ぎの王子の地位は我が子に「戻る」という。インド・ヨーロッパ語族に属するヒッタイト人の王位継承法(「テリピヌシュ告示」)は、「王は第一王子がなるべし。第一王子なくば、第二王子がなるべし。男子の王位継承者なくば、第一王女と結婚した男子が王になるべし」と定められているそうである。つまりヒッタイト王家の王位継承は男系優先だ。ここが女系相続が認められているセム語族系エジプト王家とは異なる点。もし、ウリアがエジプトの王女だったら、王位が彼女の息子ジダンタシュに渡る可能性は十分あるし、そうでなくても、テリピヌシュが男系優先を定める以前のヒッタイト古王国時代には、女系の王が即位した例が数例あるという。ヨハネス・レーマンの著書「ヒッタイト帝国」の記述によると、先王の妹の息子とか先王の妹婿、娘婿→その子へと即位した例が実際にあるらしい。好例が、ムルシリ1世(? – B.C.1590年)の謀殺に関与したといわれる娘婿、2代後のツィダンタ1世であろう。これが、ヒッタイト史に名を残す実在の王位簒奪者ジダンタシュである。ムルシリ1世の後を継いだハンティリシュ1世(ムリシリ1世の妹婿)をも謀殺したらしいこの王は、皮肉にも自身の息子アムンナシュによって殺されたそうである。(ついでに、古ヒッタイト王家の歴史をたどると、父王に叛旗を翻して追放された王子とか、反抗的な娘を勘当せざるをえなかった父王なんてのがゾロゾロ出てきて面白かった)。日本でも今まさに皇室典範改正論が活発なこともあるせいか、王位継承は男系優先か女系も認めるべきかというのはまさに遠くて近い話題だなぁと、今月のウリア絡みの話は私にはなかなか面白く読めた。
息子ジダンタシュが王になれば自分は王太后。女性として最高位に就くのだとウリアが夢想するシーンがある。スケールの差異はあるにせよ「私を認めよ!」という叫びである。世界中の誰が彼女を嗤えよう。

でも、その一方で、怨恨だけで突っ走るゆえに彼女は躓かざるをえなくなるだろうと、いや躓かねばならぬと私は確信している。王家が基本的に勧善懲悪マンガで、大人気のイズミル王子が善玉に近いからというのもあるけれど…ウリアが甥を殺してでも達成させたいウリア自身の「夢」の輪郭を、作者は表面的にしか書いていないのではないかと思うのだ。だから、ウリアさま頑張れ〜ともいいようがない(まして息子がアレでは…)。「私が世界を手に入れたら、もう誰の血も流さないのに」と語った清原なつのさんが描いた光明皇后(「光の回廊」)は、その昔、私を大いに泣かせたものが、王家のウリアさまは、濁は呑めても清の部分を語りえない点で王太后の器ではない。それがとても残念だ。
作中でイズミル王子が傷つけば傷つくほど、仇敵ウリア母子は邪悪と位置づけられる。尤も、邪悪でも彼らは直情馬鹿。そしてなぜそこまで?と思うようなナルシスト。これが王家悪役に振られる宿命ではないか。
この王家ワールド特有の原理主義じみた割りきり方は、私は好きではないのだが、まぁ…わかりやすいという意味で面白いのは否定しない。ただ、もうちょっとウリア自身の生の感情みたいなものが見えたらいいのになとも思う(馬鹿な子ほど可愛いのねという見方をすれば、王になった息子を妄想するコマはある意味とても切ないが)。ウリアに共感の余地があったほうが、受けてたつイズミル王子だって魅力的に見えるでしょ。子供のころから従兄弟のイズミルが目障りだったとジダンタシュは吼える。しかしそれは誰のせいでもはない。いけ好かない血縁同士はとかくいがみあうものだ。ただ、それは子供時代だから許されるってところがあって、昔の恨みつらみを昔のまま垂れ流し、血なまぐさいことが大好きな乱暴男ジダンタシュは図体だけでかくなった子供にしか見えないし、仮にもしあの男が王位簒奪者たり得ても、彼ら母子の末路は碌なものではなかろうな、という気が私にはするのである。

先月の火事場のバカ力をみせて私を泣かせた(嘘)反動か、はたまた黒パン王の出番を奪ったせいか、イズミル王子は今月登場無し。
イズミル王子には気の毒だが、伯母と甥であるいは従兄弟同士で殺しあうというのはある意味王族に生まれたものの負の宿命だから、歴史もの愛読者としては満身創痍でがんばれ王子としかいえない。

*1:ヒッタイト王姉 ウリア