豆の山

クールなハゲと美女愛好家。家事育児パートに疲弊しつつ時の過ぎゆくままなる日々雑感をだらだら書いています。ナナメな王家ファン。

 2006年2月号プリンセス連載分雑感

新年明けましておめでとうございます。

今の時期、七草がゆを食べるとよいらしいというので、我が家でもひとパック買って初めて七草汁なるものを作ってみたのだけれど、やせ我慢してあく抜き手抜きしたらばなんかエグすぎ降参。ここでまたひとつ年を重ねたことにはっと気づいた私は、こないだ何気なく買ったイタリア直輸入マスカルポーネチーズがあったのを思い出し、この寒いのにうきうきとティラミスもどきなんぞ作るのである。「女の子ってかんじよねぇ☆」と電話くれた友は褒めてくれたけれど、いやいや、女の子は普通一人で祝いケーキ作って一人で喰ったりしないって。ナポレオンの料理人だかルイ14世の料理人だったか、フランスにマスカルポーネチーズがないのを知って自殺しちゃったシェフがいたそうだが、そりゃ死にたくもなるだろう。美味しいマスカルポーネチーズって本当に濃厚で癖になりそうだなぁ〜と感涙にむせんでみるのだった。

さてさて、新年早々そんな食い意地垂れ流し話はやめましょうね。

で何を書くかというと、新春初記事が王家感想。
これも実に冴えてないのだが、何はともあれ継続は力なり。石の上にも5年。プリンセス 読んだら鳴こう ホトトギス。月刊プリンセスの表紙タイトルロゴは一年ごとに微妙にデザインが変わるのだが、今年はキラキラ☆ライトストーン☆☆で縁取りロゴが採用されたらしい。目が痛いぞおい。新生、『でらっく「すっ!」』は和みますわい。

さあ、そこの恋する女の子(男の子もだ)!
愛のバイブルの用意はいいかね?
新しい年も 果てしない愛の地平に飛翔しようじゃないかぁ〜!!
――と稜線鮮鋭な冬の富士に片足上げて遠吠えてみる。

ネタバレその他私的雑感は以下別項。



[[●今月ネタバレあらすじ

  • 大水に二人して流され、岸辺に打ち上げられたキャロルとイズミル王子。満身創痍の王子を仇敵ジダンタシュの一味が取り囲み、王子絶体絶命の大ピンチーーー!ここで物陰に潜むキャロルが思わず放った目潰しはジダンタシュの注意を引き、「王子の長年の想い人、黄金の姫じゃ」と身元まで露見したうえ、彼らの生け捕りに。
  • 王子は獅子奮迅の粘りで踏みとどまり、キャロルを取り戻そうとするが、多勢に無勢。力及ばず、近づくヒッタイト兵の気配を嗅ぎ取ったジダンタシュにキャロルを連れ去られてしまった。
  • 立ち去り間際、ジダンタシュたちは悔し紛れに王子に向かって戦斧を雨あられと投げて寄越すが、すべて外れ王子の髪一筋も傷つけることはできない有様。対して王子渾身の一投は、ジダンタシュの右上腕をかすめ手傷を負わせちゃったりなんかして。
  • 王子は追いついてきた部下のハザズ将軍に、ジダンタシュにナイルの姫を奪われたと告げ追撃を命じるものの、とうとう力尽き昏倒。
  • 再び寝床の上で目覚めた王子は、侍医から誰かが自分の止血をしてくれていたことが幸いして助かったと告げられ激しく心揺さぶられる。初めて、姫の心に自分が受け入れられたのだと。(いついかなる状況でもドリームスイッチonなひと、それがイズミル王子だ。4ページぶちぬき大感激シーンはまことに味わい深い)
  • しかし幸いなことに、再度現実に返った王子は、自分を憎むジダンタシュが愛する女にどんな仕打ちを加えるかと思うといてもたってもいられず、直ちに追捕に向かおうとする。が、体調絶不調で立ち上がることすらできない。傍らに控える老将軍ハザスは、世継ぎの王子に体の回復に専念して欲しいと宥めるのだった。王子無念にくれる。
  • その頃、ユーフラテス河沿いの村落は、火災と大水から命からがら逃げてきた避難民でごった返し、そのなかのある民家に怪我した身を潜めるジダンタシュ一味の姿があった。宿敵イズミルの命を千載一遇のチャンスを逃したことに歯軋りしつつ、母子は再びのチャンスを狙って策を練りつつというか気合の酒盛りへ。
  • 一方、連れてこられたキャロルは小部屋に監禁され、悪寒を覚えながら、はぐれたハサンの名を力なく呼ぶ。
  • ごったがえす市場の群集のなかに、単身ケツシ将軍の後を追ってきたルカの姿あった。
  • とここで、ルカはなぜか横合いから鉄拳制裁される。「だ 誰だ何をする」(そりゃそうだ)
  • 憤るルカの前に仁王立ちする男は、頭から湯気立つ青筋ハサン。激怒ハサンの詰問からナイルの姫が消えたことを悟ったルカだが、事情がわからず困惑するしかなく…以下、3月号に続く。]]


[[[[●今月のお言葉
「イズミル王子が欲しいものは――人間だろうが動物だろうがおれがもらう!」 *1]]]]



●今月のダラダラ

前号から疑問がひとつある。
「わがヒッタイトの王位を狙い 8歳の折わたしの暗殺を謀り 発覚して逃亡したジダンタシュか!」ジダンタシュはイズミル王子から紹介され、こいつは子供のとき王子の暗殺を謀ったヤバイ男というキャラが固まりつつあるが、ちょっと待て。

その昔、イズミル王子(当時8歳)の暗殺を謀った主犯はウリア伯母さんのほうじゃないのか?
事件当時、8−9歳だった息子のジダンタシュは事後に母から陰謀の全容を知らされたにすぎず、子どもだった彼自身はイズミル暗殺事件には何らタッチしていない(と私は記憶している)。いとこのイズミルがいなくなれば自分がミタムン王女の夫になって王位につけるから死ねよ、くらいの認識はさすがにジダ坊にもあったようだが、その程度の少年にまでヒッタイトの国法は主犯格の罪を問うのだろうか。母の罪はどこまでも子に報いるということですかな。とはいっても、今回の再会にあたりジダンタシュはまさにイズミル王子を殺害しようとしたわけだから、さすがにそんな昔の話はどーでもいいことになりそうではあるけれど。

さてそのヤバいジダンタシュ王子、ヒッタイト史に残る帝位簒奪者と同じ名を持ち、別名ヒッタイトの郷田剛君、またあるときはウラルトゥの木こり与作、今はバルバリソッスの金太郎か、はたまたユーフラテスの熊男か、私の色悪役化願望を木っ端微塵に打ち砕いたこの男、先月の顔見世以来わずかの間に顔が膨れ&濃化&タラコ唇&猪の首&脳内筋肉男になってしまった。しかも、ここにもれなく「威圧的でいやな人」(byナイルの姫)な権力志向猛母つきよ。暴君ネロの母アグリッピーナ級とはいわないが、もうちょっと政治的向きで、腹の底の知れぬ不気味さ漂わせた女性だと嬉しかったんですがね、ウリア様。どうもヒッタイト王太后の座を狙ってるようだのだが、そちらの世界ではキャロルを侮るとあとでひどい目にあうのがお約束ですので、お気をつけあそばせ。加えてジダの手下どもは「逞しい…我らが勇者ジダンタシュさま」と大将にうっとり流し目〜。そんな彼らのキャロル評は、出ました負け犬キャラ御用達捨て台詞「こんなちっぽけな姫のどこがいいのか」。はっはっは。いやぁ久しぶりに聞きましたねぇこの悪罵(カーフラ姫、お元気〜〜?笑)乱暴男ジダ殿下を戴く彼らにとって、デカいこと=善なのである。褒め称えるべき勇者の美徳は、ひとおつ、体格はワイルドで逞しいこと、ふたあつ、思考は即断即決大雑把であること、みいっつ、体力つけたきゃ杉伐採、よぉっつ、酒は大言壮語しつつ浴びるように飲め!が掟。みるからに頼りなげな小娘など、ましてヨレヨレな手弱男など勝負にならぬと舐めきりまくり。こんなマッスルヒートなジダ坊一味に未来はどっちだ。うっかりと、「イズミル王子、こんな熊男に負けちゃイヤだフォーーー!!」と王子を応援しそうになっ――ハッ。ひょっとしてワタシはうまうまと作者に乗せられているだけなのか??

ラストでひとり事情がわからず困惑のルカにつられて、私も記憶逆回転してみるに、ルカのなかでは「ナイルの姫は今頃ケツシ将軍が偽装した花嫁行列に守られ、粛々とシリア砂漠を北へ進みながらヒッタイトへいらっしゃっているはず。でも将軍の痕跡がないってどういうこと(悩)」なのだろう。いきなり話を引き戻されちまって私の頭も再起動。そして、近くの河岸高台で歯噛み中のはずのファラオは、今回登場シーンなし。観客の度肝を抜くよな黒パンツ履かされてまで彼の君が必死に探す愛妃、しかし彼女の口をついて出る名は旅商人(哀)。もしこの先、ジダとメンフィスが激突があるとしても、二人は初対面のうえにどう考えてもその場の展開は猪武者VS熊大将対決、瞬間湯沸器計測実験っぽいんだもん。それより王子と決着つけてみないか?ファラオ。

ま、私の萌え展開話はいいからいいから。
前号までの展開では、せっかく王子がキャロルに「二人は夫婦になった」ことを告げ、さてさてこれからの二人の変化や如何?と期待したとたん、もう今月でキャロルと王子は引き離されてしまった。短い逢瀬でありましたね王子。思えば、49巻末のタニスの王宮から始まったキャロル拉致リレーも、今度のジダ坊でもう第8走者なんだよね(ルカ→ケツシ将軍→狼頭巾イリシュ→大商人バザル→崖下民家のおっちゃん→ハサン→イズミル王子→ジダンタシュ、となってます)

この間、何かストーリーに劇的変化、劇的決着の局面はあったか。
いや、ほとんどない。

キャロル嬢が過去にバレエを習っていたことが発覚したくらいで、強いて上げれば「アイシスの懐妊発覚」だろうが、これもすぐに王夫妻がバビロンへ帰還となった以上今すぐ展開するネタとは考えにくい。紅海北上中の謎太子さまとか、少年王ミイラ窃盗事件の顛末とかウバイドさんや新聞記者ニックのその後ネタなみの塩漬けにならぬことを祈るわアメン。

思うに、劇的変化か?と思わせる「つかみ」だけは困らない。ここ2年だけでも因縁の二人の対決シーンは何度もあったのである。例えば、アイシスとキャロルの再会、アルゴンとメンフィスの再対決、キャロルとイズミルの再会、そしてイズミルとジダンタシュ。だが「つかみはOK」でも蓋をあけると不発というか湿ってるというか、消えるんだわこれが。

すべて「顔を会わせ」はしたものの、「二人の因縁」を説明台詞で長々と語らせたものの、かなり盛り上がりはするものの、「で、それからこの二人はどこを目指すんだい(ワクワク)?」というところで流れをぶった切る手法はもう見飽きた(しかも、それらすべて横合いから別の敵が割って入って、対決が中断しうやむやになるというそっくりな展開はなんとかならんのか)。確かにヒロイン本領発揮の兆し?とか、溜まったルサンチマンのガス抜き?は見られたが、だからといってこの長大なストーリーが収束に向かい始めたかというと全然そんな気配なし。謎めいた神託あり、感動の再会あり、大火あり、大雨降りで死者も大勢出たしで、まあこれだけ考え付くのもすごいが、あくまで背景が動いただけ。前より魅力的になったよなぁという人物も、引っ張り込んで話を押し流すような新キャラも今のところいない。枯れ木はあくまで山を賑やかすだけで実を結ばぬ。だいたい、再登場キャラにしたところで、一方的妄想純化や逆恨み節を見せられても、私には共感の仕様がないのである。

私としては、現時点でイズミルとキャロルに離れて欲しくはなかった。想いを叶える叶えないの問題ではない。究極の状況で、彼らに<あなた>と<わたし>の対話をして欲しかった。そこに具体的な解決が見出されずともいいのである。例えば、今月号で意識を取り戻したイズミルがキャロルに手当てされていたことを知った場面は、拒絶され続けてきた男が彼女に命を助けられたという事実から一抹の希望を見出して心を震わせる〜なんていう表面的にはまことに美しいモノローグシーンなのだが、やはり絶望的なまでに不毛。なぜって、またしてもそれがイズミル王子の一人語りでしかないからだ。彼は回想し、キャロルの行為を脳内で反芻し、彼女にそうさせた心境について「自分が」断定を下す。しかもここでなぜだか唐突に解説がつくんだな。曰く

「王子の体を…一瞬!あふれる喜びが 熱い想いが全身をつつんだ 王子ははじめて…キャロルの心に受け入れられた気がして……積年の想いが堰をきり…嵐のように身を包む…!」

とな。
(にしても、細川センセの呼吸つーか、!と三点リーダーの使い方って独特だよなぁ。しゃくっくり起こしそうですわ。それに地の文を心理描写な吹き出しにいれられると混乱するんですがね。あのコマでは中央の「おおお…」だけが王子の言葉でしょ?王子まさか一人芝居中っすか?)

私には、あれぞ余計なお世話の解説と思えてならない。
「気がして」はどこまでも「気がして」にすぎないのに。しかも王子は「そういう気がする」だけで自己完結できる稀な才能の持ち主だからして、別の真実など見たくもないし見る気もないのである。でも彼がここで掴んだと思った「他人の心に自分が受け入れられた喜び」の感覚すら、脳内自己補完の産物である以上いずれ必ず彼を欺く。そのときイズミル王子はどうするんだろう?自分を保っていられるか?

だからこそ私は理解に苦しむ。語り手はことここに到っても、彼を道化にしたいのだろうかと。ジダンタシュに捕らわれたキャロルの身の安全を案じ、焦燥に呻く王子の姿は、何かと彼に点の辛いワタシからみても切ない〜〜(大嘘泣)と思わせる何かしらの吸引力がある。確かにある。彼にはここでひとつ頑張って欲しいとワタシまで大真面目に願ってしまうほどに。
だからこそわからん。あんな大仰な心象解説入れたドリームシーンに持ち込むなら、むしろ王子の口からキャロルに直接「そなたはなぜ私を見捨てて逃げなかった?」と問わせないのはなぜですの?私は彼女に王子の心に真正面から向かい合い、何らかの「答え」を王子に言って欲しい。キャロルの返答が拙くても姑息でも卑怯でも、キャロルの生の言葉が聞きたい。別にキャロルという少女を貶めるつもりも偶像視するつもりもないのだが、読み始めてはや20年近くがすぎると、キャロルの衝動的な無鉄砲は彼女の心の優しさ、などと素直に読み替えられなくなったアタシがここにいるのである。ヒロインに誰も傷つけさせたくないあまり、ターニングポイントで小手先の逃げをうち続け、話を意味なく長引かせ続ける作者の平和的姿勢をみせつけられるたび、私は虚しさを覚える。
せっかく大風呂敷広げた大ロマンなのになあ。台詞も大事だろうが、言葉以上に、彼らの視線、顔色、微妙な表情、声のトーン、強弱、仕草から「物語のエッセンス」を堪能させてほしいのだ。どんなに想っても叶わない切なさ、孤独、でも伝えたい思いとかその他いろいろ。マンガ表現でこそ読者にも伝わるものはあると思うし、そのほうがよっぽど物語が前に進むんじゃないか。つまり、私の思う「物語を面白くさせるキモ」というか、「物語を面白くさせる決定的なバネ」というのはラブシーンの出現頻度や男キャラの美形度ではなく、曰く言いがたい心のひだの深度みたいな箇所なのだが、昨今の王家でそんなマイツボをつかれたことはほとんどない。こうまで徹底的に語り手とおしゃべりタイムからみえるメインライン(?)と私の趣味嗜好が食い違うなら、もうこのへんで沈黙するしなかないのだろうか〜と近年ひしひしと痛感するところ。でもでも根がおしゃべりだからこうしてダラダラ書いちゃうわけだけど(笑)

趣味の違いといえばもうひとつ。あの感動コマで王子の顔に鼻斜線入れて、背景に☆トーン、吹き出しに花柄トーン飛ばされると、私が受けとる言外のニュアンスは“これはギャグですから”以外の何者でもない。そのせいで、ここらへんものすごくちぐはぐな印象を受けるのである。もしかして珍妙なスクリーントーンを削り、鼻斜線の代わりに王子の眉間に縦皴入れてくぅぅ〜って万感極まるって表情だったら、ある意味不毛で滑稽でもあるが、ここの王子の歓喜する気持ちに多少は寄り添えるかも。私のコミュニケーション力があさって方向なだけかもしれんが。

メンフィスとアルゴン、キャロルとアイシスの再会と断絶についても物足りなさは同じ。過去に決定的な確執があった二人の間にも時は確実に流れた。長編ならではの絶対無比の「時の流れ」を味わいたいのだよ。宿敵同士が再び顔をあわせ、言葉を交わしたことによって、そこから新たに生まれる局面を私は見たかったのだよ。だが、その期待もすべて肩透かしに終わった。「わたくしは王子の恋人ではありません」といつものように叫びながらキャロルは次の敵の手に落ち、王子は律儀忠実な部下の元に帰されてしまった。おポンチエジプト王宮編に萎え萎えだった身としては、昨今のジェットコースター的展開は無論歓迎だが、景色とか乗り心地を味わってる暇がないのだよなあ。もっとも、大河のように滔々と流れるこの大長編漫画にあって、現時点の一局面だけをとりあげてあーだこーだという私こそ大馬鹿モノである。わかっちゃいるが、あともう少しだけキャラの心情に寄り添ってみたいのだ。かつては確かに、彼らは私だったのだから。

まあいいや。
繰言はきりがないのでこれでおしまい。




【追記】(10/14)
過去の王家連載雑感記事ログ(の下書き)が出てきたのでボチボチ追加していきます。

*1:暗殺者ジダンタシュ イズミル王子のいとこの君