豆の山

クールなハゲと美女愛好家。家事育児パートに疲弊しつつ時の過ぎゆくままなる日々雑感をだらだら書いています。ナナメな王家ファン。

 三浦しをん 「ロマンス小説の七日間」

ロマンス小説の七日間どこでこの本が紹介されていたのか忘れてしまったが、どこかの書評ブログでおススメされていたはず。ありがとうございます〜!題名に少々怯みながら読み始めたものの、あとは一気に読了。主人公(28歳の女性)は海外ロマンス小説の翻訳者なのだが、ある日、半同棲中の恋人が急に会社を辞めて来たなんて言い出すものだから、わけわかんなくて大混乱。歯の浮きまくるようなラブラブ大団円だったはずのヒストリカルロマンス小説の翻訳原稿も、訳者が感情のままにどんどん捏造していくものだからトンでもない代物へと…さて、現実と小説の結末はいかに、というお話。
恋愛小説だけど、さっくり美味しい仕上がり。冒頭の背中が痒くなるようなキラキラしい翻訳箇所を読まされたときは笑い死にしそうになったが、だんだんフツーになってくれてありがたかった。兵糧持久戦型の私としては、最後がとみに面白かった。もちろん、捏造された筋立てのほうが断然面白いに決まってるじゃねーよ!と力説したい。私は毎月「王家の紋章」連載感想書くような救いがたい木乃伊乙女だが、ロマンス小説とやらは未知の分野である。んが、だいたい予想はつく。文庫コーナーに行くと、平積みで売られている、長い金髪碧眼女性の顔アップに湖水だか古城だかのシルエットがオーバーラップしている、アンニュイなカバー群のノベルズコーナーがあったりするが、あのへんをたぶんロマンス小説というのではないか。タイトルは「石の都に横たわれ」「愛よりも冷たく」「琥珀の女王」「鐘が鳴りひびくとき」「炎の薔薇」とか、そんなかんじ。(嘘。適当に捏造するなというに)この本で知ったのだが、美男美女が型どおりに結婚して困難を乗り越えてハッピーエンドに至るとわかっている物語をロマンス小説というらしい。そのロマンス小説にも細かいジャンル分けがあって、なかでも中世騎士とお姫さまの恋物語なんてのは「ヒストリカルロマンス」とよばれて特に人気があるそうである。へぇ。
特に傑作だと叫びそうになったのが、主人公あかりが要約するロマンス小説の定義12行の下り。

時代考証がしっかりしていようがいまいが、恋。ロマンス。これさえ書かれていれば、読者は満足する。
その意味ではロマンス小説って、すべて「ファンタジー」だ。麗しい外見でもちょっと気が強くて、処女で心根の真っ直ぐなお姫さまが、かっこよくてちょっと粗野で、過去のあるホントは心根の優しい騎士と恋に落ちる。二人を陥れようとしたり、横恋慕してちょっかい出してくる悪役に翻弄され、互いの想いがすれ違ってすったもんだした後に、忠実な部下や侍女の助けもあって無事誤解が解け、二人は末永く幸せに暮らすのでした。ハッピーエンド。
まずこの展開で間違いない。濡れ場が何頁目に来るかもだいたい見当がつくくらいだ。これを幻想と言わずして何と言う。


ロマンス小説は、結局のところ家族小説だ。ヒーローとヒロインが、いかにして幸せな家庭を築いたか、という話だ。

そうそう、そうなのよ。あかりさん。
だから「王家の紋章」なんぞは(長く見積もって)29巻で終わって良かったんじゃないかと小生愚考いたしておるのでありますよ。現実ってものは予測不可能で今自分が人生のどの章ににいるかなんてわからないのだから、せめてワンパターンを読んで憂さ晴らしをしたいのだ。まぁ、わたしの場合は「もうエジプト王宮に帰ってきたみたい。ほんとに、あの苦しい日々が夢のようだわ…」なんてニコニコしてる姫さまの大コマを指さしながら「夢で済ますな夢でっ!!そうやって過去消去してっからまた誘拐されるんでしょうがぁーーーー!!」と怒鳴る(時に書き込む)わけだが。ものすごく判りやすい王家ワールドを愛しつつ、ツッこまずにいられないというこのアンビバレンツな感情の正体を見事抉り出してくれた本書に感謝したい。

あとがきがムチャクチャ面白かったので、今度はこの方のエッセイも読んでみよ。