豆の山

クールなハゲと美女愛好家。家事育児パートに疲弊しつつ時の過ぎゆくままなる日々雑感をだらだら書いています。ナナメな王家ファン。

第一章 ローマ 出会い編

2.ジュリオの秘密


トレビの泉前での偶然の出会いで始まったあのデートの日から一週間。朝子の留学先、聖マリア学園構内では学園蔡の告知が掲示された。ダンスパートナーを探さなきゃと浮かれる学生たち。亜季は何食わぬ顔で朝子に近づき、ジュリオを招待してみたら?ダンスなら教えてあげるわよと声をかける。その気になった朝子はジュリオに手紙を書き、喜んで出席しますとの返事を得て胸をおどらせる。影でほくそえむ亜季。
学園祭当日。
準備が華やかに盛り上がりつつあるなか、特別生として学園に君臨するベラがパーティー用のドレスを披露し、皆から羨望の眼差しを一身に集めていた。しかし、家から電話だと呼び出されたベラが部屋を留守にした隙に、誰かがドレスを持ち去ってしまう。
ほどなく朝子宛にもジュリオからプレゼントの箱が届く。入っていたのは素敵なドレスだった。大喜びした朝子はすぐにそのドレスを身にまとい、笑顔でジュリオを出迎える。正装でやってきたジュリオは、和やかに朝子に挨拶すると明日彼女を家へ招待したいと告げた。
「きみにだけぼくのひみつを教えたい 朝子、それを知ってもぼくとつきあうと約束してくれるね?」
そのとき、ドレスを盗まれたと蒼白になったベラが通りかかり、朝子に目を留める。それは私のドレス…とのベラの大声に振り向いたジュリオの顔を見て、ベラはいっそう驚愕。さらに何かを口走りかけたベラの口をとっさに塞いだジュリオは、ベラを連れ出して慌てて部屋から出て行ってしまう。
後刻、学園内の庭園内。
「ベラ きみがこの学校にいるとは知らなかった」
苦々しげに呟くジュリオの前にひざまづいた少女は恭しく答えた。
「わたくしも…まさかジュリオさまが学園のパーティに それも日本からの留学生のパートナーとしていらっしゃるとは存じませんでした。あなたはオーストリイ王国のジュリオ皇太子ですもの!!」
皇太子は、今日のことは父王に黙っていてくれるようベラに口止めする。自分は1ヶ月だけ一人ローマへ好きな音楽の勉強にきたことになっているからと。しかし、ベラは父が国王に仕えている以上、自分も皇太子のことはすべて報告する義務があると譲らない。わたしは今恋をしている…と微笑む皇太子の言葉に驚いたベラは、あのひとが着ていた服はわたしの服だと苦言を呈するのだった。
<と、ここでなぜか場面ブチキレ>
そのころ、広間では朝子がベラの服を盗んだ、泥棒だと激しい非難にさらされていた。朝子がいくらこれはもらったのだと弁解しても、当の送り主ジュリオはその場に居らず、ましてベラが事前に披露していた実物を見ていた生徒たちは、朝子の弁明など全く聞く耳持たない。ついには先生が呼ばれる大騒ぎとなる。この事態をすべての仕掛け人亜季がほくそえんで見守っていた。
翌日。
聖マリア学園職員室では、問題ばかり起こす留学生藤井朝子を東京へ送り返すべきだという意見が噴出していた。しかし、ただひとり朝子の頑張りを知る女教師アンナだけが弁護に立ち、監督責任を自分が負うと庇ったことでなんとか処分は見送られる。
そうはいっても、服泥棒の汚名を着せられてしまった朝子にとって、今や針のむしろ状態の学園生活辛かった。亜季を先頭に、陰口と非難は一向に止む気配がない。耐えかねた朝子がジュリオにだけは自分の潔白を信じて欲しいと手紙を出すと、すぐにジュリオが会いにきた。
「朝子、手紙を読んだよ。ぼくがきみを信じてないと思ったのかい?ぼくの心がわからないのかい?」
ジュリオは朗らかに笑い、朝子をデートに連れ出すのだった。
まずは朝子と初めてであった「愛の泉」に詣でたあと、二人は海水浴へ向かう。他愛なくじゃれあう二人。そのときジュリオは首から提げていたペンダントが外れた機会を捉え、それを朝子に与えた。高価なものでしょと固辞する朝子にジュリオは重ねて
「いや 受け取ってほしい。ミス朝子。それはね 家に代々伝わるペンダントだ。心から愛する人にあげるもの……朝子、ぼくの心がわからない?」
「ジュリ…オ…」頬を赤らめる朝子。
そんな仲むつまじい二人を、近くの別荘のテラスから望遠鏡越しに見つめるひとりの貴婦人の姿があった。傍らに立つのは朝子の同級生ベラ。
ジュリオのそばにいる人は誰です?と振り向いてベラに訊ねた貴婦人は、言いよどむベラに対し、威厳に満ちた態度で質問に答えるように促す。この貴婦人こそは誰あろう、ジュリオの母、オーストリイ王国の王妃であった。王妃は、息子を心配して単身おしのびでローマを訪問中の身。
王妃の下問である以上、ベラは答えざるを得なかった。
そんなことは何も知らぬまま、朝子はジュリオと次の日曜日のデート約束をして寮の前まで送ってもらう。謹慎中にもかかわらずデートに出かける朝子を見かけて怒った亜季は、密かにアンナ先生を連れ出して朝子が遊び回っていますと見せ付ける。だがアンナ先生はそのこと自分ひとりの胸にしまっておいたため、またしても亜季の目論見は外れてしまった。

そして約束の日曜日。
朝子を迎えに来たジュリオは、このあいだ泳ぎにいった海岸近くにある別荘に移行と車を走らせる。まるで宮殿のような別荘の外観に驚く朝子がジュリオに連れられて入ってゆくと、広間に女性の姿が。母上、どうしてローマに?と驚くジュリオに、その女性は冷たく言い放つのだった。
「オーストリイ王国の世継ぎの皇太子の身でありながら、他国の娘と……それも日本の娘とたわむれるなんてもっての他です、ジュリオ!!」
思いもしなかった事実をつきつけられ、朝子はその場に凍りつく。そのうえ、朝子の身辺を調べ上げたらしい王妃が彼女の家庭事情を非難口調で読み上げはじめるに至って、いたたまれなくなった朝子は屋敷を飛び出してしまう。慌ててあとを追うジュリオ。やっと海ぎわで朝子に追いついたが、動転した朝子は、ジュリオが自分を騙したのだと、あなたは立派な皇太子、わたしは貧しい日本の少女、お友達なんかになれるはずはないじゃないの、あなたなんか大嫌いだと泣き叫ぶ。懸命に説明しようとするジュリオ。
「ぼくがうそをついてきみをだましていたと思うのかい ぼくはけっしてうそはつかない ぼくはうそはつかないっ 朝子 このローマの海に そして愛の泉にちかう!!朝子わたしはきみをあいしている!!誰がなんと言おうとわたしはきみを 世界でだた一人きみだけを心から愛している!!」
 朝子の手をとり、甲に接吻したジュリオはそう誓うのだった。

翌日
新聞紙面に「ローマ滞在中のオーストリイ王国のジュリオ皇太子が、立太子礼のため明日オーストリイに帰国」という記事が出る。朝子のボーイフレンドの正体を知り、学園中が騒然となっているところに、東京から朝子宛に至急郵便が着く。母親が倒れたという弟しげるからの知らせだった。驚愕した朝子はすぐに東京に帰りたいと、アンナ先生に泣いて懇願し、明日にも帰国という運びとなる。そこへオーストリイ王妃からの使いだという男たちが朝子を訪ねてくる。いずれヨーロッパのどこかの王室出身の王女と婚約するのだから、ジュリオのことは忘れて欲しいという王妃の伝言に朝子は黙って同意し、過日ジュリオから贈られたペンダントを添えてジュリオに別れの言葉を託すのだった。

またその翌日、いよいよ朝子が帰国する夕刻。
ローマ空港を発つ朝子は学園の同級生と最後の別れをしている。滑走路に車が滑り込み、礼装姿のジュリオが飛び出してくる。まさにタラップを上ろうとしていた朝子を見つけたジュリオは駆け寄り、君を決して諦めない、世界で一番愛しているのは君だけだと告げ、近習に押しとどめながらも、あのペンダントを朝子に投げてよこすのだった。
「それはぼくの愛のあかし 朝子 僕は愛の泉の伝説を信じる!!いつの日かきっとまたきみと会おう!!」
 朝子は飛行機の窓越しにジュリオに、ローマに、そして初恋に別れを告げるのだった。
さようなら、ローマ
さようなら、愛の泉、
さようなら、わたしの恋 もう二度と会うことはないでしょう…
涙にくれる朝子の心は、はや病に倒れた母のもとへ飛んでいくのだった。

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