豆の山

クールなハゲと美女愛好家。家事育児パートに疲弊しつつ時の過ぎゆくままなる日々雑感をだらだら書いています。ナナメな王家ファン。

2007年2月号プリンセス連載分 雑感

月刊 プリンセス 2007年 02月号 [雑誌]
【今月のネタバレあらすじ】
インダス国の使者、シンドウ太子歓迎の宴が始まる。
夜が更けても争って献上物を届けようと王宮に殺到する民の姿を目にし、シンドウ太子は、エジプトに上陸してから見てきた国土の豊かさ、民の幸福な様子を改めて思い出しては羨望の念を抑えきれない。そして、ついに彼はエジプトに君臨するファラオとその妃に対面。噂に高いナイルの姫を間近で見ることになったものの、魔性の女と予想していた当の女性がいかにも頼りなげな小娘であることに困惑してしまう。
メンフィスの差配のもと宴はたけなわとなり、夫の傍で寛ぐキャロルの心も安堵と好奇心で浮き立ち、侍女テティと軽口で盛り上がっている。そんな様子をじっと観察していた太子は、彼女に関する世上の噂と現実の著しい落差をどう解くべきかと悩む。ちょうど王から声が掛かった機会を捉え、彼は王妃に接近を試みた。
太子はメンフィス王統治下の豊かなエジプトに感銘を受けたこと、自身の範としたい旨を率直に述べ、王の愛妃キャロルに対しても訪問を乞い、贈り物をするなどして賞賛を惜しまない。太子の好意を嬉しく受けたキャロルも打ち解け、インダス国の様子などを彼に質問しているうちに、インダス国内を流れるハークラー川がまもなく枯れてしまうのでは?と、かつて歴史書で読んだ雑学を思わす口に出してしまう。エジプトでは誰も知らないはずの母国の不穏な事態を言い当てられ、驚愕のあまりキャロルに詰め寄る太子。そこへ病み上がりの妃を庇うべくメンフィスが割って入ったため、太子はついに今回の来訪の真の目的を打ち明けざるをえなくなった。 
自分は不穏な風が吹き始めた国の行く末を案じる父王の命を受け、インダス国の未来を知るために、未来を読むナイルの姫に会いに来たのだということを。
太子の嘆願をうけたキャロルは、こののち東のガンジス流域へ文明が移るという点だけを語り、インダス国は滅亡してしまうことはどうしても伝えられない。キャロルの様子から太子は母国の不吉な未来を予感してしまう。
そのとき太子の部下が駆け込み、国境に敵兵が集結していると知らせる書簡を手渡す。驚いた太子はエジプト王夫妻に急遽帰国せねばならぬことを告げ、慌しく王宮を発つ。

→3月号に続く


【今月のお言葉】
「すごいわ わたし
 古代のインダス王国の太子に…会えた!
 21世紀のみんなが知れば狂喜するわね!」

「うふふ…… そうよ そうよ
 メンフィスは素敵だもん 最高の王だもん
 そしてわたしの大切な…大切なひと♡」
*1


【今月の泣き言】
 さらわれて またさらわれて 三十年
 やはり野に置け ナイルの娘  
 

とか、下手なポエムでもヒネってみたくなるわい。恐れていたとおりに見事やらかしてくれたじゃないのさ、キャロルさん。やっぱりワタシは地中海に飛び込んで里帰りしておくべきだったよ。これほどまでに思い上がって勘違いしたヒロインを見なければならないなんて、今宵は悔し涙でずぶ濡れのまま氷柱になるのね。「よかおなご入門」のコマがいなけりゃ、あたしはマジで今月姫誌を壁に叩きつけてるとこだ。キャロルはエジプト王宮に置くべきじゃない。一人で旅に放り出すべきだ。勘違いテティはいらん。あの侍女は前回の拉致事件でも酒で失敗したのに全然懲りてない、というか責任感じてなさそう。ええぃ、誰でもいいから、キャロルをあそこから連れ出してくれ。
私は、昔のキャロルの、歴史オタクで意地っ張りでちょいと考えなしでもお転婆で心優しい女の子なところが好きだった(長いな)。しかし現在、あんなにも本人は周囲から愛され、守られ、賞賛されて幸せそうである(ように描かれている)のに、読んでいる側(ワタシ)には不快感しか呼び起こさない。それはきっとワタシが単に世に言う負け犬の恨みがましい人間で、ナナメ読者だからだと思いたいが、それでも王家ワールドに問いたいことがある。キャロルが歴史書で読んだ知識を嬉々として垂れ流すのは歴史雑学マニアの血が騒ぐゆえと聞き流すにしても、それをまるで大層な贈り物でもあるかのように古代人に下賜する(ように見える)彼女の態度が私には嫌らしく感じられて仕方がない。30年経とうが依然うっかり屋のヒロインがぽろりと口走ると、皆がその言葉の端を捕えてすげ〜だの未来を語ってるぞ〜だのと盛り上がるお約束シーンにもそろそろ苦痛を覚えてきた。「未来が読める」=メンフィスたちには確かめようのないずっと後の出来事を言ってる、というだけだろう。あの世界でキャロルの「予言」が当たるとしたら、サントリー二島が爆発するときしかない。そのとき、キャロルは無邪気に口にしてきた予言の影響力を思い知ることにならなきゃいいけど。嫌がらせがまぐれで当たった月蝕騒動のときより、もっともっと凄いことになるぞ〜と今から心配してみる(大嘘)。
宮部みゆきの「蒲生邸事件」を読んで思ったのだが、王家ワールドで崇めたてまつられてるキャロルの「叡智」なるものは、要は「歴史の後知恵」というやつにすぎないのではないか。


インダス文明はいずれ滅ぶ」と姫のたまいき。
はぁ、そうですか。
で?
そんな言葉は紙の上のシミにすぎないじゃないか。未来人の自分は歴史上の事実に関する知識の蓄積があるぶん、古代人を教え導けるとか考えているのなら、キャロルは度し難いバカだ。後世の人がいかに過去を評価しようと、それでもってその当時実際に生きた人間を裁くことなど出来るものなのか?時代の心性というか、実感というものは、その時代に生きた人しか判らないという部分が絶対にあると思う。わからないだろうと思っても、それでもひとは後世に伝え残したいと書き残し、後世の人は過去に生きた人の心に寄り添いたいと思いを巡らす。それが歴史というものじゃないのかなぁと私は思うのだが。民はみんな自分のことが大好きで、愛する夫が統治するエジプトは繁栄の絶頂にあると思えば誇らしく、目の前にいるインダスの太子を見て、ハンサムだなんだと召使相手に浮かれてる今回のキャロルは、結局もったいぶったことを言って太子を不安を煽っただけで、重責に立ち向かわねばならない彼を力づけることも、彼の心に触れる碌な会話もしてやしない。結局、今月でさっさと退場となる太子さまは、自分の無力さに打ちのめさるように、「おお、わがインダス王国は滅ぼされはせぬぞ なんとしてもわたしが守る! 不吉な言葉を吐きしナイルの姫よ かならずやふたたびあいまみえん」と悲壮な決意の涙にくれて帰ったじゃないの。それでも王家の愛とやらは世界を救うのかい?
わからないなぁ。いや、王家的には「解せぬ〜」か。
これほど魅力の失せたヒロインも珍しいな。
解せぬ〜といえば、ヒロインのいきなり名君扱いされ始めたダーリンにも問いたい。
インダスの太子がわざわざ名指して妃に会いたいというからには、いずれ予言か助言目当てとわかりそうなものだが。キャロルは酒が飲めないからと、太子の杯を代わりに受けるシーンは、13巻でラガシュ王の杯を取り上げたシーンと全く同じだが、読後余韻において雲泥の差がある。あのシーンにはこの先バビロンで待ち受ける陰謀の予感や駆け引きの緊張感、でもってその間に短く咲いた切ない純愛の芳香とでもいったものが確かに漂っていたのに、今月のあれは、メンフィスは病み上がりのキャロルにただハラハラしてるだけ、キャロルは脇でポチ侍女とキャラキャラ笑いあってるだけとくれば涙も出やしない。
去年発表された作者インタビューを読んで、かつてわたしが勘ぐってしまったように昨今の展開は編集部側の意向でああなっているのではなく、作者の思い通りに描いていてアレらしいということだけは判った(編集者は原稿を戴いてくるだけで、仕事部屋に入ったことはないらしい)。内容が酷似した他作品の存在が作者にとってどんなに辛くても、それを作品に出さないように苦労されたということも判った。ワタシがファンの厨丸出しの罵倒レターばかり載せるおしゃべりタイムに激怒していたのも、きっとその無念に当てられたんだろう。だとしたら、もうこのマンガは、ワタシの受け容れがたい原理主義的世界観で描かれているものと達観して、つまりネタとして読むしかないと肝念したほうが、ずっと楽になれるのかもしれないけれども、そうはいってもかつての夢の残骸を拾うのも正直疲れるものなのだ。今月号にて、もとさんの「レディ・ヴィクトリアン」のこれ以上望めないほど綺麗なハッピーエンディングを読み終えたせいでもないだろうが、王家の未来に関しては困惑と寂しさしかないというのが本音である。やっぱり、少女マンガ的にはボーイミーツガールの物語はラストは結婚式で幕、というのがベストなんじゃないかなあ。確かに、今の誰にも否定されないキャロル夫人も女の子の夢にはなるだろう。子どもはいないし、ふわふわキラキラしたお姫さまには、優しいダーリンもパーティもプレゼントも美男子も美しいドレスもお世辞もゴシップも心易い友だちだっていてほしいが、女の子の夢ってそれだけで終わっていいものかね、とも思う。ことに王家の敵役は負け犬がデフォときた。だったら、キャロルは愛だの夢だのの綺麗ごとで言葉を飾ったりせず、マリー・アントワネットみたいに国でも滅ぼす気概で王妃ごっこしてみればいい、とか明日は憧れのオーストリア皇后と死神に会いにいく(参照)せいで、碌でもないことを考えてみた。

アメンラー神サマお願いです。
一刻も早くあの二人を離れ離れにしておくれ。

*1:エジプト王妃キャロルさん