豆の山

クールなハゲと美女愛好家。家事育児パートに疲弊しつつ時の過ぎゆくままなる日々雑感をだらだら書いています。ナナメな王家ファン。

第3章 初めてのオーストリイ編

2.ジュリオの縁談

翌朝、風は未だ強かったが、フォンテーヌ城下は旅立ちに相応しい晴天となった。
父王の命令で急に早く出発するこことになったジュリオは、まだ眠っている朝子の寝室を訪れ、マヤに起こさないようにと命じると、眠れる恋人に花を捧げながら1週間の別れを告げる。出発にあたり王宮前で、父母の見送りを受けたジュリオは、一週間後に帰城したときは朝子に会ってほしいと父王に切り出すが、頭ごなしに拒否されてしまう。ジュリオはしぶしぶエレナ島へ公務のため出発する。一方、何も知らないオリビア王女は、ジュリオと過ごす島での一週間のことで夢見心地である。
一行を見送った国王は、息子が不在の間に朝子を日本へ追い返すよう王妃に厳命する。王妃は朝子の部屋を訪れ、話があると切り口上で述べると、いきなり朝子の目の前に札束を積んで冷たく言い放った。
「このおカネをさしあげましょう これだけあれば日本へ帰ってすきな暮らしができるでしょう さあ これをもって 即刻日本へ帰りなさい!」
威厳溢れる王妃が、金で人の心を買おうとしている。私の心を。そして何よりジュリオの心を!
朝子はカチンと来た。
「王妃さま 朝子ははっきりおことわりいたします。朝子はジュリオがいいというまで日本へは帰りません。たった今 決心しました。 人の心をおカネで買うなんて、立派な王妃様のなさることではありません。王妃様は冷たすぎます。ジュリオは寂しいのですわ。お国の仕事や義務ばかり考えず、ジュリオに母親としてのやさしい愛をあげてください、もっとジュリオにあたたかい愛を…」
想いの迸るまま王妃に意見してしまった朝子であったが、このことがかえって誇り高い王妃の怒りを招く。ジュリオから日本に帰れと言われるまでは自分も帰りませんと一歩も引かない朝子に対し、王妃は今に思い知るでしょうと捨て台詞を言い置いて立ち去る。
ジュリオの乳母マヤはよくぞ言ってくださいましたと感激の面持ちだが、朝子は自分の衝動的な言葉にやや戸惑い気味。ジュリオはもうエレナ島へ到着しただろうか…マヤは明日には着くというけれど…。
その頃、懲りないマリウス公はまたしても、エレナ島で皇太子を暗殺するよう配下のひみつ部員に命じていた。一方マリウス公の養子レナンドは、先日一目ぼれした朝子のことで頭が一杯。レナンドは、ふらりと朝子が逗留している南の宮殿へ出かける。そこで昆虫採集に勤しむ朝子の弟しげると出くわし、なぜかしげるが気に入ってしまったレナンドも虫探しに付き合う。途中、園丁に見咎められ、怪力に任せて大怪我をさせてしまう。しげるはおっとりした見かけによらないレナンドの粗暴さにビックリするのだった。偶然この二人のやりとりを影で見ていた王妃は、レナンドが朝子を好いていることを知りそのことを深く心に刻む。

翌朝、皇太子一行を乗せた船はエレナ島を視界に捉えていた。
地中海の夢の島と呼ばれるエレナ島の宮殿には、オーストリィ王国の歴史が納められているのですよとジュリオはオリビア姫に解説する。ジュリオの心を得たいと頬染める王女と、次に来るときは朝子を連れてこようと胸高鳴らせる皇太子。まさに同床異夢の二人であった。
その頃、ウキウキと花束抱えて今日も朝子に会おうとやってきたレナンドを、王妃が呼び止めていた。朝子のところにいくんですと嬉しげなレナンドに、王妃はお前は朝子が好きなのかと質問。大好きだ!という素直な返事を聞き、王妃の秘めたる企みが形をとり始めた。
レナンドが朝子と結婚すれば、ジュリオはどうしても朝子を忘れなければならなくなり、そしてジュリオはオリビア姫と結婚するでしょう。
つまり、レナンドが朝子と結婚すれば…すべて…すべてがうまく行くのだと。
王妃はいとも高雅に微笑んで、レナンドに言った。
「あなたに朝子をあげましょう。つれてお行き。ジュリオが留守のときにお前の屋敷に連れて行き花嫁にしておしまいなさい」
 飛び上がって喜んだレナンドは、一目散に朝子の部屋に駆け込み、朝子の手を引っ張って自分の屋敷に連れ去ろうとする。無邪気なレナンドは「王妃さまがぼくに朝子をくれたんだ。ジュリオのいないあいだに花嫁にしろって」とまくしたて、朝子は王妃の冷酷な真意を知り愕然とするのだった。マヤも止めに入り、二人で必死に抵抗しようとするが、レナンドの怪力には女では太刀打ちできない。
とそこへ登場したるは救いの神。いや老騎士か。
総理大臣フランツである。手にした杖で、レナンドの手の甲をピシリと打ったフランツ大臣は、老貴族らしく一歩も引かぬ態度で少女を放すようにレナンドに命じる。さすがのレナンドも反抗できず、ダダをこねながらも退散。朝子は無事事なきを得る。
マヤから朝子を紹介されたフランツ大臣は、この少女がジュリオの命を救ってくれた方かと丁寧に礼を述べるのだった。幼いときからジュリオを見守ってきたフランツは、ジュリオが愛する朝子にも好意的なようである。

その頃、エリス島に着いたジュリオはオリビア姫に宮殿内を案内して回っていた。1219年の建国以来の歴史が詰まっているという美しい城を目にして、オリビア姫は薔薇色の未来計画に胸膨らませる。ジュリオがどこまでも礼儀正しく、一定の距離を置いた姿勢を崩さないことに焦れた王女は、恋する少女の情熱のまま果敢にアタック。ところが二人が地中海を見下ろすバルコニーに立ったとき、突然手すりが崩れ、慌てて助けようとしたジュリオは王女もろとも崖下に落下、ジュリオは肩に、王女は右足にと、それぞれ大怪我を負ってしまう。手すりの崩落はマリウス公配下のひみつ部員がしかけた細工によるものだった。

エリス島での事故の情報は直ちに王宮にもたらされる。負傷した皇太子と賓客の王女を迎えるため、王宮は大騒ぎとなる。ほどなく、皇太子たちが戻ってくるが、朝子は王妃からジュリオの病室に近づくことを厳しく禁じられてしまい、遠くから無事を祈るしかなかった。それから一週間がたち、ジュリオの身を心配して食事もとらなくなってゆく姉を案じるしげるが密かにジュリオの病室に潜入。「朝子はなぜ会いにきてくれないんだ」と詰問するジュリオに、しげるは王妃の禁足命令のことを説明する。
その夜、バルコニーでひとりジュリオの身を案じていた朝子のもとへ、ジュリオが会いにやってきた。1週間ジュリオと話すことも、顔を見ることすら禁じられていた朝子は、このとき初めて自分がどれほど深くジュリオを愛しているのか知る。

このとき寄添う二人を、物陰から怒りに震えて見つめている人物がいた。朝子に恋したレナンドである。そこへ、ギリシア国王から使者が来て国王が皇太子を捜しているとの知らせが入り、朝子の部屋へやってきた王妃がジュリオを見つけてしまう。息子を追い出した王妃は、朝子に重ねて近づかないようにと厳命するのだった。
リビア王女の父であるギリシア国王からの使者は、王女を招待しておきながら怪我をさせたオーストリィ王国側の不手際を鋭く非難するのだが、皇太子は私を庇って怪我をされたのだとの王女の口添えにより、ひとまず事態は事なきを得る。最重要貿易相手国であるギリシアの王女とオーストリィ皇太子との婚姻にかける王国の期待は変わらない。王妃は息子に対し、以後も王女の傍に付き添うように命じるのだった。またしても朝子に会えなくなってしまったジュリオの心は憂いに沈み、王女と談笑中でもふと遠い目になってしまう。そんなジュリオの様子をオリビア王女はいぶかしみはじめた。そんなとき、王女は自分と一緒のときはあまり笑わないジュリオが、見知らぬ日本人少女と楽しげに笑い戯れている場面を目撃してしまう。驚いた王女は、あれは誰なのかと王妃を問い詰めるが、王妃はあれは普通の日本の娘だと誤魔化す。
しかし、とうとうオリビア王女に朝子の存在を気づかれてしまったことを知った国王は激怒。これ以上フォンテーヌ城内に朝子を置いておくことは許さないと、日本への強制送還を王妃に命じる。王妃は朝子としげるを呼び出し、無理やり車に押し込むと、そのまま日本へ発つ飛行機へ乗せてしまう。せめてお別れの手紙をとの朝子の懇願も、王妃は冷たく拒否。護衛官カールを見張りにつけられて、朝子たち姉弟は否応なくオーストリィから追い出されてしまった。
その頃、朝子がいないことに気づいたジュリオが母王妃のもとに駆け込むが、日本へ帰したと聞かされて茫然自失。しかし、王妃は一向に動じない。あなたは皇太子で、朝子は名もなく教養もない日本の普通の娘。国の為にも勝手は許さないと冷たく言い放つ。
母子の諍いを物陰で聞いていたオリビア王女は、ジュリオに既に愛する少女がいたことを知って愕然とするが、当の少女がただの平民であることを知ると、王女である自分のほうに断然分があると気を取り直す。日本へ帰ってしまったひとのことなど忘れて下さい、これからはオリビアがお傍におりますわ、とジュリオの胸にすがるオリビア王女である。
だが、ジュリオが思うのは突然奪い去られた朝子のことだけ…。

その頃、朝子たちを乗せた飛行機は、大阪国際空港に到着しようとしていた。
時は1970年。ニッポンは今や万国博覧会ムード一色に包まれていた…。

⇒ 第4章 再びの帰京 傷心編 
「1.姉弟二人」の巻へ続く