豆の山

クールなハゲと美女愛好家。家事育児パートに疲弊しつつ時の過ぎゆくままなる日々雑感をだらだら書いています。ナナメな王家ファン。

それってどんなATM…?


ある日、お昼を一緒に食べた友人Y嬢が鼻息荒く言い始めた。
「ねぇ、dreamynov(仮)ちゃん聞いてよ!ワタシ、自分の親って同世代ではしっかりしてるほうだと思っていたんだけど、全然ッそうじゃないと思い知らされた出来事がこのあいだあってだね〜」
「え?だってYちゃんのお母さん、すごくしっかりした方でしょ?」
「いやいや、それが違うんだよぉ!」




以下、彼女の話より。
先日、電話をかけてきたお母上がこう切り出したそうな。

「あのねぇ、ちょっと不思議なんだけど、社会保険事務所から医療費の還付金があるって電話があって2週間が経つのに、未だに振込みがないのよ。これってどうなってるのかしら?」
「ちょっと待ってお母さん。社会保険事務所から還付金???税務署じゃなくて???」
「そうなのよー! ウチにA市の社会保険事務所から電話がかかってきたの。お宅は去年の医療費控除が受けられますから、還付金が出ますから振込み口座を教えて下さいって言うのよ」



「Yちゃん、それってましゃか……」
「そう、dreamynov(仮)ちゃん、ましゃかのアレよ。ついにキターーーよ。ウチみたいな田舎のオバサンにまで魔の手が!」
「え〜それでどうなったのよ?」


で、どうなったか。

「お……お母さん、まさかホイホイお金振り込んだりしてないよねッ!?」
「え〜なんで?だって、おカネはこっちに振り込まれるんでしょ?私がA市まで受け取りに出向きますって言ったら、いやいやそこまでしていただくには及びません。そちらの口座を教えていただければ、こちらから振り込みますのでって返事だったのよ」
「だーかーら それが還付金詐欺なのよ!あれだけニュースとか新聞で騒いでるでしょうが!郵便局のATMにも警告ポスターが貼ってあるのに、お母さん見てないの?だいたい社会保険事務所が還付金なんてありえないし!」
「エッ!?嘘、あれがそうなの?」
「そうだよーーー!」

そうなんである。私も実例は始めて聞くが。ちなみに、A市というのはYちゃんの地元の県庁所在地。お母上は今年御年61才。

ヤツらは実にニコヤカにお母上を銀行のATMまで誘導したらしい。
何しろ「ATMの前まで来られたら、またこの番号にお電話くださいね。こちらのコンピューターで同時に読み取りますから」と電話番号まで伝えたというのだ。
そして露も疑わないYちゃんのお母上は、電話で指示されたとおりキャッシュカードをATMに差し込んで携帯片手に報告しはじめた。

「今、カードを機械に入れましたよ」
「はい。ちょっとお待ちくださいね〜あ、申し訳ありません。このカードはこちらのコンピューターでは読み取れない種類のようですねぇ。畏れ入りますが、確認のため残高を読み上げていただけますか?」
「はいはい。えーと○○○○○円です」
「ありがとうございました。う〜ん、やはり読み取れてませんね。他にカードはお持ちじゃないですか?」
「持ってますよ、違うので試してみましょうか?」
「すみません、お願いします」
 別口座のカードを差し込んでしまったYちゃん母上は引き続き携帯で報告。
「はい入れましたよ、今度はどうですか?」
「ちょっとお待ちください。う〜ん、これもダメみたいですねぇ」
「あれ〜どうしたのかしら。こちらには数字が出てますよ?」
「濡れたり汚れたりしたことのあるカードだと磁気がおかしくなって、こちらの機械では読み取れなかったりするんですよ。ちなみにそちらの画面では数字はいくつになってます」
「はい、○○○○○円ですよ」
「ああやっぱり読み取れてませんねぇ」
「あらそうなんですか。困ったわね〜じゃあ、今度は農協のATMに行ってみましょうか」
「すみません」


「あわわわ……お母さん、預金残高を読み上げさせられちゃってるじゃない!」
「そうなのよ〜そんでウチの母親って準備いい人だからさぁ、そのときも財布に十枚くらいキャッシュカード入れて家を出たらしいのね。郵便局と農協と銀行の3箇所回って全部同じようにやらされたっていうのよ!?信じられないでしょ?」
「ケータイ片手にATMの前で画面操作しながら金額読み上げてるオバさん……窓口の誰も不審に思わなかったのかぁ〜」
「うん。田舎だからさぁ〜」
「キャッシュカードを指し込んだら社会保険事務所のPC画面上で職員が確認できるATM。それってどんなスーパーPCなんだ。ファンタジーすぎる……」
「だいたい機械がダメな人なんだよね。ウチの母親っておカネおろす時はいつもは窓口でおろすから、機械なれしてないのよ」
「ギャー怖すぎる。それでそれで?」

そう、それでYちゃんの母上は最後まで詐欺師を社会保険事務所の職員と信じ、ATMの前で残高を報告し続けたのである。


最後の一枚になってようやくヤツは言ったらしい。
「はい、今度は読み取れました〜○○○○○円ですね。確認できました。そちらの口座番号をもう一度教えていただけますか?」
「○○○の普通△△△△△△です」
「ありがとうございます。ではですね、そちらの口座に来週あたり還付金を振り込みますので」
「よろしくお願いします」

で。
それ以来、その職員からは全く音沙汰無く、還付金とやらも振り込まれず、くだんの電話にかけても「この電話は使われておりません」のアナウンスが流れるばかりとなり、Yちゃんの母上は不審に思って娘に相談したのだった。

「それだけ?お母さん、おカネ取られてないよね?」
「うん。ウチの母親は10万以上のおカネは定期に入れるとかしてるから、口座に残っているのはン万円しかないんだよね。ヤツらはその金額を聞いてこのオバさんはカモれないと判断したみたい」
「10件近く粘って?」
「詐欺師ってつくづく努力を惜しまないよね。でも悪意もファンタジーATMを信じちゃうオバさんには勝てない」
「いやそうじゃなくって、お母さんの危機管理が効を奏したのだよ」
「『おカネは銀行に預けるな』?」
「かといってタンスに入れてもダメだけど」
「そりゃもっとダメだ」
「何にせよ、何事も無く良かった良かったでないの」
「そうだね〜」


ハハハ。


これは友人の話です。