豆の山

クールなハゲと美女愛好家。家事育児パートに疲弊しつつ時の過ぎゆくままなる日々雑感をだらだら書いています。ナナメな王家ファン。

 「愛の泉」特集 序

苦節8年、ってのは大げさだけど、細川知栄子センセの「愛の泉」全5巻をついにコンプリートしたのである。先ごろ、そういえばあれ随分と探求ほったらかしだな…と思い出し、何気なくふらっと入った古本屋でこのセット本を見つけたときは「うっそ〜!」と声を上げて喜んでしまった。我ながらとても痛い。

この「愛の泉」は昭和45年〜昭和46年にかけて、「週刊少女コミック」誌上に連載された長編マンガだそうである。だそうだ、って私の生まれる前の話だから記憶にございませず。単行本が出たのは昭和50年代で、それも今では絶版になっている。オークションには時々出ているのだけど、絶版とあって足元見ているのか、ものすごいプレミアがついていたりする。5冊セットになると5000円〜10000円とか。元値が320円×5なのに…ボりますよねぇ。このたび、妥協可能価格な5冊セットで2500円ものを発見捕獲。色あせもなし、中身もそんなに黄ばんでいるわけでもないし、昭和58年に出版された第2〜3版のセット本なので安かったのかもしれないな。途中巻がダブったが、状態と値段を考えて目をつぶろう。
正直なところ、ものすごく期待して買ったわけではない。
期待してないのだが…夢々しい大河ロマン物語愛好者の私としては、どんなに絵が古かろうが、ギャグが寒かろうが諄かろうが、完結した細川マンガ(長編)ってのがどんなもんか、一度読破してみたかったんである。

で、読みました。
最後まで。これが意外に面白かった!嬉しや〜!
かつて小耳に挟んだ「『愛の泉』はね、最後まで読むと面白い」との推薦コメントを思い出し、心から納得した私である。というか、この話、最後を読まなきゃ全然面白くないともいえるんだよなぁ…だーかーら「王家の紋章」も最後を読まなきゃ―――(立眩)。人間は棺の蓋を覆いて初めて評価定まるというけど、まさにソレ。ていうか、完結しなきゃ、どんな傑作もただの未完作でしかない。私は永遠に終わらない物語なんて求めておらんのですよ。
まぁ、それはさておき、復刊ドットコムをのぞいてみたら、「愛の泉」は112票集めて現在出版社と交渉中になっている。文庫版ででも是非復刻をしてほしいものだ。

◇「愛の泉」あらすじ◇
日本人高校生藤井朝子は交換留学先のローマでジュリオという青年と恋に落ち、ついには将来を誓い合う仲となる。しかし、なんと彼の正体はヨーロッパの小国オーストリィの皇太子で、身分を隠して留学中だったのだ。身分や国籍の違いから、ジュリオの両親は二人の結婚に大反対、皇太子妃には貿易上深いつながりをもつギリシアの王女をと強く望み、息子の意向を無視して婚約話を勝手に進める。当然のごとく、愛し合うジュリオと朝子は、陰謀渦巻くオーストリィの政争に巻き込まれてゆく…。


二人の周囲を取り巻くのは、隣国の高貴な恋敵、政変を企み不気味に蠢動する反国王派、もちろんヒロインに横恋慕するしつこい男並びにお笑い担当勘違いキャラなどなど、細川マンガのお約束は元気に登場する。この「愛の泉」という物語は、両親を亡くし何の後ろ盾もない日本人の少女と、彼女を一筋に愛する異国の王子様の織りなす怒涛のラブロマンスってやつなのである。掲載年が昭和40年代後半ってこともあるだろうが、そりゃもう中身は、コテコテバリバリの細川調である(なんだそりゃ)。あらすじまとめる私だって恥ずかしいですもん。

とにかく、場面がくるくる入れ替わり、展開がスピーディな作品なのだ。何せ日本→オーストリィ→日本→オーストリィ→日本→オーストリィ…とメトロノームみたいに舞台が二箇所を往復して進むのだ。ゆえに1冊のなかで必ず一度は飛行機が飛ぶ!しかもヒロインが飛べば続々と後に続くから、1冊中で3機はゴォーーー!なんてこともザラにある。そして、当たり前だがキャラが揃いも揃って濃い。身体反応がデカい。身振り手振りがいちいちドラマチック。そしてどいつもこいつも、思いつめると目が光るのは何故なんだ〜!本作の絵は「まぼろしの花嫁」あたり(敢えてねじ込めば「あこがれ」と「黒い微笑」の間くらい)のものなので、「王家の紋章」の美麗メンフィスあたりの絵じゃないと駄目というこだわりファンにはかなり抵抗感があるかもしれない。後半にいくにつれ、タッチも洗練されてゆく)とてつもなくデカい目には星が飛び、睫毛は掃除できるくらいバサバサ、頭には巨大リボンとか髪飾り、貧乏だ貧乏だといいながら、そのびらびら服はどこから?てなものだし、お姫様はパリモードのフリフリドレスだし、王子様の眉毛は星○馬並に激太い。みっちりと細川風味である。泣くなワタシ!
細川マンガのお約束、ヒロインと恋人は何度も何度も大怪我するし、別れ別れは当たり前(しかし珍しく記憶喪失ネタはなかったな)。それにしてもどうして細川マンガの横恋慕男は即効「結婚しよう!(つーか、やろう!)」になるのだ。犯罪だろそれ。
ラブラブシーンはたくさんあるし(でもとても清らかよ☆)、ロマンチックで胸キュンしろというならしてやるが、いかんせんワタシは根腐れファンである。4巻の途中まで(爆)は正直キツカッタ。もうこのバカップルいやだぁ〜と本を投げるとこだったし、とにかく恋狂いで被害者意識ばかり強いこのバカ皇太子をどうにかしてくれ!と頭を抱えつつ読んでいたのである。

ジュリオ殿下におかれましては、ノーブレス・オブリージュ(身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務があるという、欧米社会における基本的な道徳観)をご存知?あなたの一挙手一投足に臣民の血税が使われてるってことを考えたことないのかね?父王の留守をいいことに惚れた娘追っかけて日本にやってくるわ、挙句の果てはボロアパート住まいで神田川ごっこしてる場合か――――っ?一途?一途な愛かこれが?ファーストレディー教育って城に缶詰して歴史叩き込んだり、お辞儀の仕方を覚えさすことか?王妃になる娘に、この国ではどんな人がどうやって暮らしてるのか見てもらいたいと思わないのか?ジュリオ、あんた、そんなに朝子と結婚したけりゃ、王位継承権放棄して平民になれつーーーーの!この手のバ○王子は細川マンガのデフォルトか?ああ、どうなっちゃうの…(もみしぼり)てなかんじ。

ところが、最終巻になると急にキャラも話も持ち直すのである。これにはチョット驚いた。細川センセってば最後にきて背負い投げですか。何しろ「わたしが間違ってました」ってヒロインに言わせちゃうのだ。昨今の王家キャロル様崇め奉り路線を思えば、これはコペルニクス的転回なんではなかろうか。恋敵の退場シーンには感動すらしてしまった。王道だけど、泣けるのよね〜〜ああ、○○○○可哀想ぉぉ(泣)。基本的にシンデレラストーリーだからあの夢々しいエンディングなんだろうが、甘いなと思いつつも、ハッピーエンドで良かったね♪と私からもお祝いして読了。
個人的好みで、細川マンガ中・短編ランクを書くとこんなかんじだろうか。
ヴェニスの恋」>「愛の泉」>「黒い微笑」>「まぼろしの花嫁」


ちなみに、5巻には「ババロア通りのプリンちゃん」という短編が併録されている。昭和50年に発表された作品らしい。この作品も初めて読んだのだが、わりと面白かった。「麗しのメリーさん」(「王家の紋章」単行本1巻収録)みたいな、細川センセのドタバタコメディセンスが良い方向に作用したかんじの、からっと嫌味のないラブコメである。ヒロインの外見がぽっちゃりペコちゃんみたいな珍しいタイプで、まぁ、おっちょこちょいドジ娘なのは定番だが、お兄ちゃんのためにひとり健気に奮戦するところなんぞいじらしくて可愛い。後味も良く、楽しく笑わせてもらった。



そういうわけで、細川マンガの(ねじくれた)1ファンとして、復刻版が出ることを願って認知度を上げるべく、微力を尽くし、めくるめく「愛の泉」世界の紹介をこれからしてみようと思う。